日々の充実を深める生きがいの4つの円とこれからの豊かな人生の描き方

日々の生活の中でふと立ち止まる瞬間に見つめ直す生きがいの本質

日々の生活の中で、仕事での責任や家庭での役割を十分に果たし、ふと立ち止まった時に「この先の時間をどう生きていくか」と思索を深めることは、人間の自然な心の動きです。

社会的な責任を全うする中で、自分自身の内面に向き合う時間が少なくなり、結果として次なる目的を探し求める感覚は、決して一人だけのものではありません。

 

これからの時間を、愛する家族や大切な人たちとどのように過ごし、どのような価値を生み出していくのか。

この前向きな探求心に応える概念として、日本発祥の「生きがい」という言葉が、今世界中の有識者や研究者から熱烈な注目を集めています。

 

生きがいとは、単なる個人の趣味や一時的な気晴らしを示す言葉ではありません。

「自分自身の存在価値と、社会や世界との深いつながりを実感し、毎日の目覚めに喜びを見出せる状態」を指す、極めて実践的で科学的な裏付けを持つアプローチです。

 

東北大学大学院医学系研究科が宮城県大崎市の住民約4万人を対象に7年間にわたり追跡した大規模なコホート調査では、日々の生活に意味を見出している人は、そうでない人に比べて脳卒中や心疾患による死亡リスクが統計的に有意に低いことが判明しています。

生きがいの有無は、単なる心理的な満足感にとどまらず、人間の生命力そのものに直接的な影響を与える要素として機能しています。

 

これからの時代において、生きがいの見つけ方は、自らの内面を深く見つめ直し、社会や自然環境との関わり方を新しくデザインしていく喜びに満ちた旅です。

愛する人とのかけがえのない時間を心ゆくまで楽しみながら、世界に対して自分ができる最善の貢献を果たしていく。

その重なり合いを見つけることが、人生の時間をより輝かしいものへと変化させます。

 

極限状態における精神の視点が示す人間が求める意味

 

「人生は決して状況によって耐え難くなるのではなく、意味と目的の欠如によってのみ耐え難くなる」

(Life is never made unbearable by circumstances, but only by lack of meaning and purpose.)

精神科医であり心理学者であるヴィクトール・フランクル氏は、人間の心理を「意味への意志」という観点から捉えた心理療法である「ロゴセラピー」の創始者です。

1942年、ユダヤ人であったヴィクトール・フランクル氏は、ナチス・ドイツによって家族と共に強制収容所へと送還されました。アウシュヴィッツを含む複数の収容所を転々としながら、飢えや寒さ、病気、そして死と隣り合わせの日々を経験したことが記録されています。

そのような極限状態の日常において、彼は、「人はどのような環境に置かれても生きる意味を見出すことができる」という深い確信へと至ったのではないでしょうか。

彼が希望を失わずに生き抜いた胸の奥には、没収されてしまった心理学の原稿をいつか再び世に出したいという使命感や、離ればなれになった妻や家族との再会を信じ続ける強い思いがあったのだと推察されます。

また彼は、収容所で多くの人々を観察する中で、ある明確な事実を報告しています。それは、必ずしも肉体的に強い者が生き残るわけではなく、未来への希望や生きる意味を失った者から先に力尽きていくという現実でした。

だからこそ彼の言葉は、外的な環境や物質的な豊かさ以上に、「自分はなぜ生きるのか」という意味や目的が、人間を支える大きな力になることを私たちに教えてくれているように感じられます。

ヴィクトール・フランクル氏は、たとえ身体の自由が奪われたとしても、苦難に対してどのような態度を選ぶかという「精神の自由」だけは誰にも奪えないと語りました。その思想は現代においても、自分らしい生き方や「生きがい」を考えるうえで、今なお私たちに寄り添い続けながら、大きな示唆を与え続けているのではないでしょうか。

 

世界的な価値観の変化と自然へのまなざしから紐解くこれからの生きがい

 

現代社会において「生きがい」というテーマが国際的な議論の輪の中心にあるのは、世界規模で人々の価値観が地殻変動を起こしているからに他なりません。私たちはこれまで、物質的な豊かさや経済的な成長、あるいは効率と利便性をがむしゃらに追い求めてきました。

 

しかしその代償として、自然環境や地域社会との血の通った直接的なつながりを喪失しつつあります。この決定的な環境の変化こそが、個人のやりがいや人生の方向性を迷わせる要因となっています。単なる消費や所有では満たされない、持続可能で本質的な幸福への欲求が、いまかつてないほど高まっているのです。

 

この背景には、地球環境問題という人類共通の深刻な現実が横たわっています。国連食糧農業機関(FAO)が発表した世界森林資源評価によると、新規植林等を考慮しない純粋な森林減少面積は毎年1020万ヘクタールに達しています。

 

さらに経済協力開発機構(OECD)の報告では、2019年の世界のプラスチックごみ発生量は3億5300万トンにのぼり、そのうち2200万トンが適切な処理をされずに環境中へ流出したと推計されました。1950年代以降に海へ流出したプラスチックごみの総量は1億3900万トンと推計され、5mm未満のマイクロプラスチックは海中だけでなく大気中にまで広がり、生態系へ深刻な影を落としています。

 

これらの事実が私たちに突きつけるのは、日々の些細な選択が地球全体の未来と地続きであるという「つながり」の感覚です。

 

環境心理学の研究では、人間が自然環境の保護や生態系の維持といった「自分よりも大きな存在や目的」に貢献していると実感するとき、脳内でオキシトシンやセロトニンといった幸福感をもたらす神経伝達物質の分泌が促進されることが報告されています。

 

つまり、海の生き物を守り、広大な森林を保全するという利他的な行動は、単なる義務や自己犠牲ではありません。地球環境を回復させると同時に、行動する主体である人間自身の「生きがい」を心の奥底から深く満たす、極めて本質的なアプローチなのです。

 

深い森の探求者が見出したすべての生命の繋がり

 

「自然の中で1つのものを引っ張ると、それは世界の他のものと繋がっていることに気づく」

(When we try to pick out anything by itself, we find it hitched to everything else in the Universe.)

アメリカにおける自然保護運動の父であり、国立公園制度の礎を築いたジョン・ミューア氏は、生涯をかけて広大な森や山々を歩き続け、自然保護の重要性を人々に訴えかけたナチュラリストであることが広く知られています。

彼はカリフォルニア州のシエラネバダ山脈の調査を行い、ヨセミテ国立公園の設立に多大な貢献を果たしました。また、彼が1892年に初代会長として設立した環境保護団体であるシエラクラブは、今日においても世界的な影響力を持っています。

この言葉は、ミューア氏が1869年の夏に羊の群れと共にシエラネバダ山脈の深くへ入り、手つかずの自然の中で数ヶ月を過ごした際の日々の記録をまとめた著書の中で明確に綴られています。

その生活の中で彼は、岩や木々、川の流れ、そして足元の小さな昆虫に至るまで、自然界に存在するすべてのものが目に見えない無数の糸で結びつき、緻密で壮大な生態系という一つの命を織り成しているという真理を、自らの足と肌で直接感じ取ったのではないでしょうか。

「人間もまた、この巨大な生命の織物の一部である」という彼の思想は、単なる環境保護の枠を超え、森の木々を守ることは人間自身の魂や精神を守ることと同義であるという深い確信へと昇華されていったのかもしれません。

経済的な利益や開発の波が押し寄せる時代において、目の前にある豊かな自然をありのままの姿で次世代へ残そうとする彼の日々の実践は、決して自己犠牲や義務感から生まれたわけではなかったと推察されます。

それは、自分が世界全体と深く繋がり、この地球という大きな存在に直接的に貢献しているという実感をもたらす、彼にとって何にも代えがたい「生きがい」だったのではないでしょうか。

私たちが自然とどう向き合うべきか、そして私たち自身の命がどのように世界と結びついているのかを、彼の言葉は今もなお静かに問いかけているように感じられます。

 

IKIGAIを形作る4つの円の重なり合いと日常に落とし込むための段階的アプローチ

 

「生きがい」をどのように見つければよいのか。その漠然とした問いに対して、思考を整理するための道しるべとして世界中で共感を集めているのが、「IKIGAIの4つの円」という概念です。

 

これは人の活動を4つの要素に分け、それらが重なり合う中心にこそ深い充実感があるとする考え方です。自分が今どこに立っているのかを知るための、心の地図のような役割を果たしてくれるのではないでしょうか。

 

地図を構成するのは、次のような4つの要素です。

 

まず1つ目は、「大好きなこと(What you love)」です。時間を忘れて夢中になってしまう趣味や、心が純粋に喜ぶ活動を指します。

2つ目は、「得意なこと(What you are good at)」です。これまでの経験で培ってきた専門知識はもちろんのこと、自分にとっては息をするように簡単にできるけれど、なぜか周囲からよく頼りにされるような能力のことです。

3つ目は、「世界が求めていること(What the world needs)」です。少し大きく聞こえるかもしれませんが、身近な誰かの困りごとを解決したり、社会の小さな隙間を埋めたりと、他者の生活を豊かにするために必要とされる要素を意味します。

そして4つ目は、「対価を得られること(What you can be paid for)」です。これは仕事としての金銭的な報酬にとどまらず、誰かからの「ありがとう」という感謝の言葉や、社会的な承認といった精神的な対価も含まれていると捉えられるのではないでしょうか。

 

これら4つの円がすべて重なり合う状態は、ポジティブ心理学において「フロー状態」を引き起こす最適な条件と一致することが明らかになっています。

アメリカのクレアモント大学院大学などで研究を行った心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏らの調査において、自らの高い能力を用いて明確な目標に没頭する「フロー状態」に入る頻度が高い人ほど、長期的な幸福度や生活満足度が飛躍的に向上することが報告されています。

 

生きがいを見つけるということは、これらすべてを最初から完璧に揃えることではないのかもしれません。まずは日々の活動を振り返り、自分が「どの円を満たしていて、どの要素が足りていないのか」を一つずつ静かに確認することが、最初の一歩になるのではないでしょうか。

 

現在の立ち位置を把握し、少しずつ円の重なりを意識して日常の活動を中心へと寄せていく。そのような段階的で無理のないアプローチの先に、あなたらしい本質的な生きがいが形作られていくのだと推察されます。

自然の造形を描く表現が示す自分だけの世界を創り出す勇気

 

「自分自身の世界を創るには勇気がいる」

(To create one’s own world takes courage.)

アメリカの近代美術を代表する画家であるジョージア・オキーフ氏は、20世紀において、花や動物の骨、荒野の風景などを独自の視点で描き続けた芸術家であることが広く知られています。

彼女は当時の主流であったヨーロッパの伝統的な美術や、男性中心の芸術の枠組みにとらわれることなく、自然の造形を画面いっぱいに拡大して描くという独自の手法を確立しました。また、彼女は都市の喧騒から離れたニューメキシコ州の広大な砂漠地帯へ単身で移り住み、そこで目にしたありのままの自然を題材に数多くの作品を残しています。

この言葉は、既存の芸術の常識や周囲からの評価に流されることなく、独自の表現様式を切り拓いていった彼女自身の歩みを明確に示しています。彼女が画家として活動を始めた時代は、女性が芸術家として自立して生きていくことが極めて困難な社会でした。

そのような厳しい逆風の中で筆を握り続けた彼女は、誰かが決めた美しさの基準ではなく、自分自身の目で見て、肌で感じた真実だけをキャンバスに写し取るためには、他者の声に抗う強い意志が必要であると、身をもって実感していたのではないでしょうか。

彼女の創作活動は、自然の美しさへの底知れぬ探求心という「大好きなこと」と、それを絵の具で表現する「得意なこと」が見事に融合したものであったと推察されます。結果としてその作品は多くの人に驚きと感動を与え、世界的にも高く評価されるに至りました。

彼女が厳しい自然環境である荒野の風景や、そこに横たわる動物の骨を生涯描き続けたのは、決して名声や地位を得るためではなかったのかもしれません。ただ自らの内側にある感覚にどこまでも忠実であり続けること、そして「自分自身の世界」をキャンバスの上に創り上げること自体が、彼女自身の命を強く支える何にも代えがたい生きがいだったのではないでしょうか。

私たちが自分らしい人生を歩もうとするとき、彼女の言葉は力強く背中を押し、一歩踏み出す勇気を与えてくれます。

大切な家族との時間と社会貢献が交差する生きがいの美しい実例

 

IKIGAIを構成する4つの円の重なり合いを見出し、それを実際のライフスタイルへ落とし込むことで、日々の景色はより豊かなものへと変わっていきます。とりわけ、社会的な貢献と家族との大切な時間を両立させる生き方は、これからの時代において、人生の方向性を定めるひとつの道しるべになるのではないでしょうか。

 

「未来を育み、かけがえのない命を守る」という目的を掲げる当財団の代表理事である石尾美海は、日々の活動の中でこの円の重なりを実践しています。石尾は、国内外のカンファレンスへの登壇をはじめ、世界中の様々な分野の人々と深く語り合い、ご縁を広げていく一方で、日々の時間の使い方を細やかに調整し、家族と過ごす時間を大切にしています。

 

今後のAI時代にこそ残るのは、家族の絆や大切な人との時間であるという考えのもと、折に触れて家族と共に過ごす時間を持ち、「命の時間」として今という一瞬一瞬を慈しむ姿勢をベースとしています。

 

同時に当財団の活動として、海洋生態系の保護・調査研究の支援や、プラスチックごみ削減に向けた啓発活動、次世代への海洋環境教育の提供など、海のいのちを守るための多角的な取り組みを行っています。これまで培ってきた経験やネットワークを社会課題の解決に活かすことは、財団が掲げる「美しい自然や生命を守る」という目的を形にする、ごく自然な実践のプロセスでもあります。

 

他者への貢献といった利他的な行動が個人の内面にどのような影響をもたらすかについて、カナダのブリティッシュコロンビア大学とハーバード大学の合同研究チームが学術誌『Science(サイエンス)』にて具体的な検証結果を報告しています。この調査では、被験者に少額の現金(5ドルまたは20ドル)を渡し、自分のために使うグループと、他者への贈り物や慈善団体のために使うグループに分けて、一日の終わりの幸福度を測定しました。その結果、与えられた金額の大小に関わらず、他者のために資金を提供したグループは、自分自身のために消費したグループよりも明確に幸福度が高まることが実証されています。

 

さらに、自然環境の保護活動が個人の生きがいや幸福度に与える影響について、イギリスのサセックス大学と野生生物トラスト(The Wildlife Trusts)が共同で実施した調査において、より詳細なデータが示されています。自然保護のボランティア活動に定期的に参加した人々のうち、参加前に幸福度が低いと回答していた人の95%が、6週間後に明確なメンタルヘルスの改善を実感したことが報告されています。単に自然の中で過ごすだけでなく、自然環境を守るための具体的な行動をとることが、社会や他者とのつながりを深め、参加者の人生に強い目的意識や充実感をもたらすことが明らかになっています。

 

石尾が活動の軸として掲げる「成長×貢献×大切な人との時間」という3つの要素。このように、社会への還元という外側への働きかけと、身近な家族と過ごすかけがえのない時間を重ね合わせていくことは、私たちの人生をより価値あるものへと導く、ひとつの確かなアプローチとなるのではないでしょうか。 

 

大空を駆ける飛行士の行動が照らす未来への責任

 

「未来について言えば、あなたの務めはそれを予測することではなく、可能にすることである」

(As for the future, your task is not to foresee it, but to enable it.)

作家でありながら飛行士として空を飛び続けたアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ氏は、『星の王子さま』や『人間の土地』といった文学作品を通じて、人間性の本質を深く問いかけた人物であることが広く知られています。

彼は民間航空の黎明期において、危険を伴う郵便飛行の開拓に従事し、広大なサハラ砂漠やアンデス山脈の上空を飛び回りました。そして第二次世界大戦が勃発すると、年齢制限を超えていたにもかかわらず軍への復帰を強く志願し、偵察機の操縦士として過酷な前線へと自ら身を投じています。

この言葉は、彼の死後に残された膨大な手記をまとめた著書『城砦』の中に記された一節です。先の見えない戦争という暗い時代において、多くの人々が不安に怯え、あるいは絶望に支配されていた中で、彼は未来を単なる「待ち受けるもの」や「予測する対象」として捉えることを明確に拒絶しました。

彼が年齢や体力の限界を押ししてまで自ら操縦桿を握り続けたのは、安全な場所から理想の平和を思い描くためではなく、自分の愛する人々や祖国が再び自由を取り戻す未来を、自分自身の行動によって切り拓いていくという強烈な責任感があったからだと推察されます。

傍観者として未来を予測して嘆くのではなく、今ここにある現実に対して自ら行動を起こし、望む未来を「可能にする」ための実践を重ねること。

そのような過酷な環境下での決断と行動の連続は、彼にとって単なる自己犠牲というよりも、自らの存在意義を証明し、世界と直接的に関わり続けるための何にも代えがたい生きがいだったのではないでしょうか。

私たちが先の見えない社会の中で自分の役割に迷うとき、彼の言葉は、頭で考えるだけでなく具体的な行動を起こすことの絶対的な価値を、私たちに力強く教えてくれます。

 

4つの円を重ねる過程で陥りやすい思い込みと本当の生きがいへの視点

 

IKIGAIの4つの円という概念を理解し、いざご自身のライフスタイルに当てはめようとしたとき、多くの人が立ち止まりやすい傾向があるようです。

それは、「4つの円すべてを完璧に満たすような、劇的で壮大な使命をすぐに見つけなければならない」と思い込んでしまうことにあるのではないでしょうか。

 

今の仕事をすべて手放して社会起業家にならなければならないのか、あるいは世界的に評価される才能がなければ生きがいを得られないのかと、無意識のうちにハードルを高く設定してしまうケースが多々見受けられます。

 

しかし、認知行動心理学の分野における知見に基づけば、人間のモチベーションや幸福感は、巨大な目標を一度に達成することよりも、日常の小さな行動の変化と、それに伴う微細なポジティブ感情の蓄積によって形成されることが報告されています。

アメリカのノースカロライナ大学チャペルヒル校が行った心理学の調査では、日常生活における微細な喜びや感謝の感情を意識的に蓄積することで、ストレスに対する免疫力や精神的な回復力が明確に向上することが明らかになっています。

 

さらに、日常の小さな行動が内面にどのような変化をもたらすかについて、カリフォルニア大学リバーサイド校の研究チームが実施した「親切な行動」に関する実証実験が報告されています。この調査では、被験者に「週に1日だけ、5つの小さな親切(誰かのためにドアを開ける、同僚の仕事を手伝うなど)を意図的に行う」という課題を与え、その後の心理状態を測定しました。結果として、このささやかな利他的行動を実践したグループは、そうでないグループと比較して幸福度が有意に向上し、そのポジティブな状態が長期的に持続することが確認されています。

 

「世界が求めていること」とは、必ずしも国際的な舞台で演説をするような規模の活動を意味するわけではありません。

休日の朝に家族の話に笑顔で耳を傾けること。海辺の散歩の途中でプラスチックごみを一つ拾うこと。あるいは、後進の育成のために自分の経験を少しだけ分かりやすく伝えること。これらはすべて、あなたの周囲の世界が強く求めている、極めて価値のある貢献と言えます。

 

初めから4つの円の中心を完璧に射抜こうとするのではなく、まずは「大好きなこと」の円を少しだけ広げてみる。あるいは「得意なこと」を使って、身近な人を喜ばせてみる。そのような柔軟な試行錯誤の過程そのものが、4つの円を少しずつ引き寄せ、やがてあなたの人生を支える強固なIKIGAIへと成長していくプロセスとなるのだと考えられます。

 

無意識の領域を探求した言葉が教えるそれぞれに異なる人生の正解

 

「ある人に合う靴も、別の人には窮屈になる。あらゆるケースに合う生き方のレシピなど存在しない」

(The shoe that fits one person pinches another; there is no recipe for living that suits all cases.)

 

分析心理学の創始者であるスイスの精神科医、Carl Jung(カール・ユング)氏は、人間の心を無意識の領域まで深く探求し、人が自分自身の真の姿になっていく「個性化の過程」という独自の理論を提唱したことで広く知られています。彼は臨床の現場における数多くの経験から、人間の心はそれぞれ固有の歴史と形を持っており、決して画一的な正解や治療法に当てはめることはできないという事実を実証しました。

 

この言葉は、彼が心理療法の目的について論じた著書の中で明確に綴られています。他者の成功例や社会的な評価基準に自分を無理に合わせるのではなく、自身の内側から湧き上がる独自の感覚や興味を大切にすることの重要性を力強く示しています。

 

彼が患者たちと向き合う中でたどり着いたのは、万人に共通する幸福のマニュアルを探すのではなく、自分自身のサイズに合った生き方を見つけるプロセスそのものが、人間の心を本質的に救済するという確信だったと推察されます。

 

彼自身が生涯を通じて人間の心の深淵を探究し続けたのは、誰かの真似ではない「自分にしか歩めない道」を歩むことへの強い肯定が、彼自身の探求を支える何にも代えがたい生きがいだったからではないでしょうか。

 

あなただけの生きがいが創り出す新しい景色と次世代へ手渡す豊かな記憶

 

生きがいの見つけ方とは、どこか遠い場所に隠されている宝物を探すようなものではありません。それは、あなたがこれまで生きてきた豊かな経験と、今ここにある日常の風景を、新しい解釈で編み直していく美しいプロセスです。

 

今回の内容における重要な視点は以下の3点に集約されます。

 

「内なる情熱と社会の接点の理解」

自分自身の純粋な喜びと、世界や環境が求めていることの重なり合いを知ることが、深い充実感の源泉となります。IKIGAIの4つの円を意識することで、日常の選択肢が明確になります。

 

「小さな利他的行動の蓄積」

壮大な目標を掲げる前に、海や森を守る小さな行動や、身近な人への貢献を重ねることが、脳科学的にも実証された幸福の土台を作ります。日々のささやかな実践が、いずれ大きなうねりとなります。

 

「愛する人たちとの時間の優先」

社会的な役割を果たすだけでなく、家族や大切な人との何気ない時間を心から味わうことが、命の時間を最も輝かせます。身近な絆を大切にすることが、すべての社会貢献の出発点となります。

 

休日の早朝、まだ街が動き出す前の透き通った時間に、窓辺の小さなテーブルに腰掛けてみてください。湯気の立つ白湯を両手で包み込みながら、少しずつ明るくなる空のグラデーションを見つめてみる。

日々の役割に追われて心が窮屈に感じられる時は、自然が織りなす圧倒的な色彩の移ろいをただ受け入れることで、自らの内側にある本当に大切な価値観が浮かび上がってきます。

 

自分が心から心地よいと感じる感覚を取り戻す時間が、あなたの中にある生きがいの種にたっぷりの栄養を与える大切なプロセスとなります。

 

医学の発展を通じて未来の命へ託した良き祖先であるという願い

 

「私たちの最大の責任は、良き祖先となることだ」

(Our greatest responsibility is to be good ancestors.)

 

アメリカの医学者でありウイルス学者のJonas Salk(ジョナス・ソーク)氏は、1950年代に世界で初めて小児麻痺(ポリオ)の安全なワクチンを開発し、数え切れないほどの子供たちの命を救った人物であることが広く知られています。

 

1955年にワクチンの安全性が公式に宣言された際、彼は莫大な個人的利益を生むはずの特許を一切取得せず、「太陽に特許は取れない」と語り、その権利を無償で全人類に向けて公開する決断を下しました。

 

この言葉は、人類が未来の世代に対して負うべき役割について彼が語った際に残されたものです。彼が目先の利益を度外視し、自身の人生の時間を削ってまで昼夜を問わず研究に没頭し続けた胸の奥には、現在の自分たちの行動が、未来に生きる人々の生活を決定づけるという深い自覚があったのだと推察されます。

 

まだ見ぬ未来の子供たちへの愛情と、自分がこの世界に何を残せるかという問いに真摯に向き合い続けることは、ジョナス・ソーク氏自身の人生を明るく照らし、絶え間ない探求へと駆り立てる何にも代えがたい生きがいとなっていたのではないでしょうか。

 

私たちが日々の生活の中でどのような選択をするのか。彼の行動は、利他的な実践が個人の内面をどれほど強く満たすのかを、私たちに教えてくれます。

 

「What will you leave on this planet?(あなたはこの地球に何を残しますか?)」

 

この本質的な問いへの答えは、あなたがこれから大切な人たちと紡いでいくあたたかい時間の中に、そして、未来の生命のために行動するあなたの手の中に、すでに見出されています。

 

【執筆・監修:ウィングストン調査研究部】

当財団では、世界中の人々が一度きりの人生を大切な人とともに歩み、

自分らしく輝き続けられる社会の実現を目指しております。

 

その一環として、日本発の概念である「いきがい(IKIGAI)」に注目し、多角的な研究を行っています。

 

「海外から見たIKIGAIの受容」や「生涯現役で活躍する高齢女性のライフスタイル分析」など、

共有可能な知見を多数蓄積しております。フォーラムへの登壇、カンファレンスでの発表、

メディア掲載のご依頼につきましては、下記担当までお気軽にお問い合わせください。

 

一般財団法人ウィングストン・ジャパン財団

 

担当:田中

 

【引用元・参考情報】

  • 生きがいと死亡リスクとの関連:大崎国保コホート研究 
  • 世界森林資源評価2020(FRA2020)メインレポート – FAO 
  • Global Plastics Outlook – OECD 
  • Man’s Search for Meaning – Viktor E. Frankl 
  • My First Summer in the Sierra – John Muir 
  • Flow: The Psychology of Optimal Experience – Mihaly Csikszentmihalyi 
  • Georgia O’Keeffe: A Life – Roxana Robinson
  • Georgia O’Keeffe Museum(About Georgia O’Keeffe)
  • Prosocial Spending and Happiness: Using Money to Benefit Others Pays Off – Science 
  • The Little Prince – Antoine de Saint-Exupéry
  • Open hearts build lives: positive emotions, induced through loving-kindness meditation, build consequential personal resources – Journal of Personality and Social Psychology 
  • The Collected Works of C.G. Jung – Carl Jung 
  • Be A Good Ancestor – Salk Institute for Biological Studies 
  • Viktor Frankl Institute(Life and Work)
  • みすず書房(夜と霧)
  • 経済協力開発機構(Global Plastics Outlook: Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options)
  • 国連食糧農業機関(世界森林資源評価2020)
  • Sierra Club(John Muir Misquoted)
  • Goodreads(My First Summer in the Sierra Quotes)
  • FOREST COLLEGE(林業の魅力シリーズ第193弾:ジョン・ミューアと自然保護の原点)
  • Science(Spending Money on Others Promotes Happiness)
  • The Wildlife Trusts(Nature volunteering improves mental health, study finds)
  • Goodreads(Citadelle Quotes)(C.G. Jung Quotes) 
  • Salk Institute for Biological Studies(About Jonas Salk)
  • University of North Carolina at Chapel Hill(The broaden-and-build theory of positive emotions)
  •  University of California, Riverside(Pursuing happiness: The architecture of sustainable change) 
TOP