森のネットワークから学ぶ、未来へ受け継ぐ命のつながりとIKIGAIの育み方──これからの生き方に迷ったあなたへ

途切れない命の連鎖に触れて見出す自分だけのIKIGAIと未来への贈り物

日々を懸命に生き、社会的な責任を全うしてきた方々が、ふとした瞬間に「毎日が同じことの繰り返しのように感じる」と立ち止まることは、人間の心の成熟に伴う極めて自然な変化です。

 

長年の経験を通じて多くの知識や技術を手に入れたからこそ、これからの成熟した時間を誰のために、何のために使うべきかと思慮を深めるのは、心の内側にある豊かな感受性が新たな目的を探し求めている証拠と言えます。

 

これからの人生の時間を、愛する家族や大切な人たちとどのように分かち合い、どのような価値を社会へ還元していくのか。

この深い思索に応える概念として、日本発祥の「生きがい」という言葉が、世界中の有識者や環境保護に取り組む人々から熱烈な注目を集めています。

 

IKIGAIとは、単なる個人の楽しみや表面的な成功を示す言葉ではありません。

「自分自身の存在が、地球という巨大な生態系や社会と深く結びついており、日々のささやかな行動が未来の命を支えていると実感できる状態」を指す、非常に実践的で科学的な裏付けを持つ概念です。

 

日本医科大学付属病院の研究チームが実施した森林医学に関する大規模な実証実験では、人間が都市部の喧騒から離れて森林環境に身を置くことで、樹木が発散するフィトンチッドと呼ばれる香り成分が呼吸器から体内に取り込まれ、人間の免疫機能をつかさどるナチュラルキラー細胞の活性が50%以上も上昇し、その免疫力向上の効果が数週間にわたって持続することが実証されています。

 

人間の身体は本来、森の空気や自然の成分と直接的に呼応する仕組みを持っており、人間もまた自然という巨大なネットワークの一部として機能していることが明確に示されています。

 

これからの時代においてIKIGAIを見出す道程とは、自分自身を自然の一部として捉え直し、未来の生命のために何ができるのかを新しくデザインしていく温かい旅です。

 

愛する人とのかけがえのない時間を心ゆくまで楽しみながら、広大な森や土壌が命を育むように、世界に対して自分ができる最善の貢献を果たしていく。

その優しい重なり合いを見つけることが、人生の時間をより輝かしいものへと変化させます。

 

自然の摂理を見つめ続けた科学者が残した不屈の生命力への気づき

 

「地球の美しさについて深く思いを巡らせる人は、生命が続く限り耐え抜くための力の蓄えを見出すでしょう」

(Those who contemplate the beauty of the earth find reserves of strength that will endure as long as life lasts.)

 

アメリカの海洋生物学者であり、環境保護運動の先駆けとなった著書『沈黙の春』で知られるRachel Louise Carson(レイチェル・ルイズ・カーソン)氏は、化学物質の乱用が自然環境や生態系に及ぼす致命的な危険性を、世界で初めて広く大衆に向けて警告した人物です。

 

彼女は、鳥たちのさえずりが消えてしまった恐ろしい未来の春を想定し、緻密な科学的データと豊かな文学的表現を交えて、人間が自然を支配しようとする傲慢さに強く警鐘を鳴らしました。

 

彼女が巨大な化学産業や一部の権威ある科学者たちからの激しい批判や圧力にさらされながらも、決して自らの主張を曲げなかった背景には、生命の網の目がいかに繊細で壊れやすいものであるかという事実を、誰よりも深く理解していたからだと推察されます。

 

さらに彼女自身、執筆の最終段階においては重い病魔に侵され、肉体的な苦痛と闘いながらペンを握り続けていたという記録が残されています。

そのような過酷な状況下にあっても、彼女の精神が決して折れることがなかったのは、海辺の潮だまりや森の木々が織りなす「自然の美しさ」そのものが、彼女の魂に無限の活力を注ぎ込んでいたからではないでしょうか。

 

彼女の言葉は、私たちが日々の生活の中で困難に直面したとき、足元の土や木々の緑という最も身近な自然に目を向けることの絶対的な価値を教えてくれます。

 

地球上の生命が持つ驚異的な回復力と美しさに触れることは、彼女にとって単なる科学的な興味を超え、自らの命を燃やしてでも未来の子供たちへ美しい世界を残そうとする、何にも代えがたいIKIGAIであったと考えられます。

 

効率化された社会で失われつつある土壌のネットワークとIKIGAIの行方

見えないつながりへの想像力がもたらす精神の充足

 

現代社会においてIKIGAIというテーマがこれほどまでに議論の的となっているのは、私たちのライフスタイルが、目に見えない生命の循環から決定的に切り離されてしまったことに根本的な原因があります。

 

私たちはこれまで、目に見える経済的な利益や、即座に結果が出る効率性を最優先に追い求めてきました。

しかしその結果として、私たちが口にする食べ物を育む土壌や、清らかな空気を作り出す森林といった、地球の基盤となる生態系との直接的な関わりを喪失しつつあります。

 

「毎日が同じことの繰り返しだ」と感じる心の隙間は、まさにこの「自分よりもはるかに大きな生命のネットワーク」とのつながりが断たれていることから生じる違和感なのです。

目先のタスクをこなすだけでは満たされない、持続可能で本質的な幸福への欲求が、私たちの内側で静かな悲鳴を上げています。

 

この違和感の背景には、地球環境問題という人類共通の極めて深刻な現実が存在しています。

 

国連食糧農業機関(FAO)および国連環境計画(UNEP)がまとめた土壌炭素に関する報告書によると、地球上の土壌は、大気中や地球上のすべての植物を合わせた量よりもはるかに多い、約2兆5000億トンもの炭素を内部に貯留しており、気候変動から地球を守る巨大な貯蔵庫としての役割を果たしています。

 

さらに、世界中の農地の約33%が、過剰な開発や化学肥料への依存によってすでに劣化しており、豊かな土壌が本来持っていた微生物のネットワークや炭素の保持能力が急激に失われていることが指摘されているのです。

豊かな森を支える土壌の劣化は、単に木々が育たなくなるという問題にとどまらず、地球全体の気温上昇や異常気象の連鎖へと直結しています。

 

これらの事実が私たちに突きつけるのは、私たちの足元にある土壌という「目に見えない世界」が、全人類の未来の命運を握っているという圧倒的な事実です。

 

また、人間の心理に関する研究において、土に触れ、自然環境の回復に寄与する行動をとることが、人間の精神衛生に劇的な効果をもたらすことが実証されています。

 

コロラド大学ボルダー校の統合生理学研究チームによる実験では、健康な土壌に豊富に含まれる「マイコバクテリウム・バッカエ(Mycobacterium vaccae)」という土壌細菌が人間の体内に取り込まれることで、脳内のセロトニン産生ニューロンが直接刺激され、抗うつ薬と同等の強力なストレス軽減効果と幸福感をもたらすことが明らかになっています。

 

つまり、土に触れ、森林の生態系を保護するという行動は、単なる環境保護活動ではありません。

地球の基盤を回復させると同時に、行動する主体である人間自身の心を深い根底から癒やし、生命の循環に直接関わっているという確かなIKIGAIをもたらす、極めて本質的なアプローチなのです。

 

大地と生命の共生を説いた哲学者が示す自然界の調和のルール

「ある行動は、それが生命共同体の完全性、安定性、そして美しさを保つ傾向があるときに正しいと言える」

(A thing is right when it tends to preserve the integrity, stability, and beauty of the biotic community.)

 

アメリカの森林学者であり、環境倫理学の草分けとして知られるAldo Leopold(アルド・レオポルド)氏は、人間を自然の「支配者」ではなく、土地という共同体の「一員」として位置づける「土地倫理(Land Ethic)」という独自の哲学を提唱した人物であることが広く知られています。

 

彼はウィスコンシン州の荒れ果てた農地を買い取り、家族とともに何千本もの松の木を植え、何十年もかけて失われた森の生態系をよみがえらせるという壮大な実践を行いました。

 

この言葉は、彼の死後に高く評価された著書『野生のうたが聞こえる(A Sand County Almanac)』の中に明確に記されています。人間にとっての経済的な利益や利便性だけで物事の正しさを測るのではなく、土壌、水、植物、動物からなる全体としての共同体の健康を守れるかどうかを、最も重要な判断基準とすべきだという彼の確固たる信念が表れています。

 

彼が週末ごとに家族を連れて荒れ地へ足を運び、泥だらけになりながら木を植え続けた背景には、自分自身の行動によって土地が息を吹き返し、再び野鳥が戻ってくる姿を見ることが、彼自身の魂を深く喜ばせる源泉となっていたからだと推察されます。

 

自然を単なる資源として搾取するのではなく、共生する対象として敬意を払うこと。

 

そのような長年にわたる地道な森の回復作業は、彼にとって決して義務や自己犠牲などではなく、自然という巨大な生命の織物に自らを編み込んでいくための、喜びに満ちたIKIGAIだったのではないでしょうか。

 

私たちが自分自身の人生の意義を問い直すとき、彼の言葉は、私たちを取り巻くすべての命に対してどのような責任と愛情を持てるのかという、極めて美しい問いを投げかけてくれます。

 

森を育むマザーツリーの仕組みに学ぶ生命を支え合うIKIGAIの実践

他者を思いやる利他的な行動が生み出す心の豊かさ

「生きがい」を見つけるためには、まず初めに特別な才能や、他者から称賛されるような目立つ実績が必要であると考える人が多くいます。

 

しかし、これからの時代のIKIGAIの形は、そのような「個人の能力の証明」という従来の誤解から離れ、もっと有機的で、互いに支え合うネットワークの中に存在しています

ここで、ひとつの明確な基準を提示します。それは、「あなたがこれまでに培ってきた経験や愛情を、未来の世代という『次の命』へどのようにパスしていくか」ということです。

 

この命の継承という概念を深く理解するために、森の地下で起こっている驚くべき科学的な事実を参照することが非常に有効です。

 

森林生態学の分野において、森の木々は決して互いに光や水を奪い合う競争相手ではなく、地下の巨大なネットワークを通じて助け合う「一つの共同体」であることが明らかになっています。

 

カナダのブリティッシュコロンビア大学の森林生態学者であるSuzanne Simard(スザンヌ・シマード)氏を中心とする研究チームは、森の地下に「菌根菌(マイコライザ)」と呼ばれる糸状の菌類のネットワークが張り巡らされており、木々がこのネットワークを通じて炭素、水、窒素などの栄養素を互いにやり取りしている事実を実証しました。

 

特に注目すべきは、マザーツリー(母なる木)と呼ばれる、森の中で最も古く巨大な樹木の役割です。

 

放射性同位体を用いた追跡調査により、マザーツリーは自らが光合成で作った余剰の炭素を、地下の菌根菌ネットワークを経由して、周囲の深い日陰で育つ若い苗木へ自発的に送り届けていることが確認されています。

 

この栄養の供給によって、若い苗木の生存率は飛躍的に高まります。さらにマザーツリーは、害虫に襲撃されると、化学物質のシグナルをネットワークを通じて周囲の木々へ送り、自衛の準備を促すことさえ行っています。

 

つまり森は、個々の木が孤立して立っているのではなく、老いた木が若い木を育て、強い木が弱い木を支えるという、目に見えない巨大な相互扶助のシステムによって成り立っているのです。

 

人間社会におけるIKIGAIの本質も、まさにこのマザーツリーの仕組みと完全に一致しています。

この記事にたどり着いてくださった読者の皆様も、これまでの人生で多くの風雪に耐え、豊かな経験と知識という「栄養」を蓄えてきたマザーツリーのような存在なのではないでしょうか。

 

あなたが持つその豊かな栄養を、自分自身の成長のためだけではなく、これから育とうとする若い世代や、支援を必要としている社会の片隅へと静かに流し込んでいくこと。

見返りを求めることなく、自らの経験や愛情をネットワークを通じて手渡していくという行為そのものが、あなたの心をかつてないほどの深い充足感で満たしてくれるはずです。

地下のネットワークを解明した研究者が伝える生命の協力関係

「森は競争的なシステムではなく、協力的なシステムである」

(A forest is a cooperative system, not a competitive one.)

 

カナダの森林生態学者であるスザンヌ・シマード氏は、長年にわたり森の地下に広がる菌根菌のネットワーク、いわゆる「Wood Wide Web(ウッド・ワイド・ウェブ)」の存在と機能を世界で初めて科学的に証明した人物として広く知られています。

 

彼女がこの研究を発表した当初、科学界の主流は「自然界は適者生存の激しい競争の場である」というダーウィンの進化論に基づくパラダイムが強く支配しており、植物同士が助け合うという彼女の論文は激しい批判と冷遇を受けました。

 

それでも彼女が屈することなく、何十年にもわたって過酷な森でのフィールドワークを続け、実験データを積み重ねていった背景には、幼い頃からカナダの豊かな森で育ち、森全体が一つの生き物のように調和しているという感覚を、肌で直接知っていたからだと推察されます。

 

主流派からの孤立という厳しい状況の中で研究を続けるためには、並々ならぬ勇気と忍耐が必要だったはずです。しかし彼女は、目に見えない菌類の働きが巨大な木々を生かし、森全体を維持しているという真実を明らかにする使命感に燃えていたのではないでしょうか。

 

競争ではなく、協力こそが生命を繁栄させる最大の鍵であるという彼女の発見は、現代の生態学の常識を根本から覆す歴史的な成果となりました。

 

目に見えないつながりに光を当て、森の木々がまるで家族のように互いを気遣い合っている姿を科学の言葉で翻訳することは、彼女自身にとって、世界との深いつながりを感じる何にも代えがたいIKIGAIであったと考えられます。

 

私たちが他者とどう関わり、社会という森の中でどのように生きていくべきかを考えるとき、彼女の言葉は、競争や孤立を手放し、他者と温かくつながり合うことの大切さを力強く教えてくれます。

 

次世代への継承を胸に歩むフィランソロピーの活動とIKIGAIの重なり

小さな行動が連鎖して世界を美しく変えていく過程

日々の生活の中でIKIGAIを見出し、それを実際の行動へと結びつけていく過程は、必ずしも孤独な道のりではありません。社会貢献と愛する家族との大切な時間を両立させる生き方は、これからの時代において、私たちの人生をより価値あるものへと導く道しるべとなります。

 

「未来を育み、かけがえのない命を守る」という揺るぎない目的を掲げる当財団の代表理事である石尾美海は、日々の活動の中でこの命の継承を実践しています。

 

石尾は、次世代の人材育成や子どもたちの無限の可能性を拓くための教育支援に取り組む一方で、海洋生態系の保護・調査研究の支援や、プラスチックごみ削減に向けた啓発活動など、地球環境を未来へ継承するための多角的な活動を行っています。

 

この活動の根底には、石尾の家族の大きな原体験があります。自身の娘がカナダのバンクーバーで海洋生物の保護活動について深く学んだ際の、「海の生き物たちが安心して泳げる海を守りたい」と願った幼い頃の純粋な思いが、ファミリー財団としての活動の強力な原動力となっています。

 

これからの時代にこそ最も価値を持つのは、家族の絆や大切な人との温かい時間であるという確信のもと、家族と共に過ごす時間を「命の時間」として何よりも優先し、そこで培われた愛情をそのまま社会への貢献活動へと拡張していくアプローチをとっています。

 

このように、純粋な利他的行動が個人の寿命や健康状態にどのような影響をもたらすかについて、アメリカのミシガン大学の心理学者サラ・コンラス氏らが実施した1万人以上の成人を対象とする長期的な追跡調査において、極めて興味深いデータが報告されています。

 

この調査では、自己の利益や精神的満足感を得るためではなく、「純粋に他者を助けたい、社会に貢献したい」という思いやりに基づく利他的な動機からボランティア活動に参加している人々は、ボランティア活動をしていない人々や、自分のために活動している人々と比較して、その後の死亡リスクが著しく低下することが判明しています。

 

他者への貢献や未来の世代を思いやる行動は、脳内のストレスホルモンを減少させ、オキシトシンなどの絆ホルモンの分泌を促すことで、人間の心身を根底から健康にする機能を持っていることが実証されています。

 

石尾が活動の軸として掲げる「成長×貢献×大切な人との時間」という要素。

私たちが森林や海洋環境を保護するために行動を起こし、その豊かな自然を愛する子供たちと共に分かち合うとき、社会への貢献という外側への働きかけと、家族との時間という内側への愛情が見事に重なり合います。その温かい連鎖を築き上げることこそが、私たちの人生に最も強固で美しいIKIGAIをもたらす確かな道のりとなるのです。

 

大地に希望の苗を植え続けた活動家が残した平和への確信

「私たちが木を植えるとき、私たちは平和の種と希望の種を植えているのです」

(When we plant trees, we plant the seeds of peace and seeds of hope.)

 

ケニア出身の環境保護活動家であり、アフリカの女性として初めてノーベル平和賞を受賞したWangari Muta Maathai(ワンガリ・ムタ・マータイ)氏は、砂漠化が進むアフリカの大地に木を植える「グリーンベルト運動」を創設し、数千万本もの植林を主導した人物であることが広く知られています。

 

彼女がこの運動を始めた当初、ケニアの豊かな森林は商業的な伐採によって急速に失われ、土壌の流出や水不足が深刻化し、多くの農村の女性たちが薪や水を手に入れるために何時間も歩かなければならないという過酷な状況に置かれていました。

 

彼女はその根本的な解決策として、政府に頼るのではなく、地域の女性たち自身の手で苗木を育て、荒れ果てた土地に植林していくという草の根の活動を提案しました。

 

この活動を通じて、彼女は時の独裁的な政権から幾度となく激しい弾圧や不当な逮捕を受けました。しかし彼女が絶対に歩みを止めなかったのは、一本の木を植えるという小さな行動が、やがて土壌に水分を留め、作物を育て、人々の生活と権利を取り戻すという「命のつながり」を誰よりも深く信じていたからだと推察されます。

 

彼女にとって木を植えることは、単なる自然環境の保護ではなく、貧困をなくし、地域社会の基盤を回復させ、未来の子供たちへ平和な世界を手渡すための最も確実な手段でした。

自らの身の危険を顧みず、名もなき女性たちとともに大地に這いつくばって苗木を植え続けた日々は、彼女自身の魂を強烈に突き動かし、世界を変えるという揺るぎないIKIGAIであったのではないでしょうか。

 

私たちが自分自身の無力さに立ち止まりそうになるとき、彼女の言葉は、今日行う小さな行動が未来の大きな平和と希望へと確実につながっていることを、私たちに力強く約束してくれます。

 

大きな使命を探す思い込みを手放し日常の循環から見つけるIKIGAI

身近な自然と向き合うことで解きほぐされる心の緊張

IKIGAIを見つけようと意識したとき、多くの人が陥りやすい傾向があります。

それは、「残りの人生をかけて取り組むべき、世界を救うような壮大な使命をすぐに見つけ出さなければならない」と、自らに対するハードルを過剰に高く設定してしまうことです。

 

仕事の第一線を退いた後、すぐに大規模なNPO法人を立ち上げなければならないのか、あるいは全ての時間を社会貢献に捧げなければ生きがいとは呼べないのかと、無意識のうちに思い悩み、結果として何も行動を起こせなくなってしまうケースが多々見受けられます。

 

しかし、進化心理学や環境心理学の研究において、人間の心を満たすポジティブな感情は、巨大な目標の達成によって得られるものではなく、日常における自然とのささやかな接触と、身近な他者との細やかな感情の共有によって育まれることが報告されています。

 

アメリカのラトガース大学の進化心理学研究チームが実施した自然環境と感情に関する実験において、人間は自然の草花や植物に直接触れ合い、その美しさを視覚的に捉えることで、即座にデュシェンヌ・スマイル(本物の喜びを表す笑顔)と呼ばれるポジティブな感情が引き出され、その状態が持続することで、他者への思いやりやコミュニケーションといった社会的なつながりを促す行動が自然に増加することが実証されています。

 

「未来の命のために行動する」ということは、必ずしも国際的な会議で演説をしたり、莫大な資金を投じたりすることだけを意味するわけではありません。

 

大切な人とともに海辺を歩きながら、流れ着いたプラスチックごみを一つだけ拾い上げること。ベランダのプランターの土に触れ、新しい命が芽吹く過程を家族とともに観察すること。あるいは、あなたがこれまでに培ってきた知識を、若い世代の相談に乗る形で少しだけ分かりやすく伝えてあげること。

 

これらはすべて、目に見えない土壌のネットワークに豊かな栄養を注ぎ込み、確実に未来の命を支える極めて価値のある貢献と言えます。

 

最初から完璧な計画を立てて大きな結果を出そうとするのではなく、まずは自らの生活圏内にある身近な自然に目を向け、大切な人との時間を慈しむこと。

そのような肩の力を抜いた柔らかな試行錯誤の過程こそが、あなた自身の心に水を与え、やがて強固でしなやかなIKIGAIへと成長していく確かなプロセスとなるのだと考えられます。

 

生命の多様性を愛した生物学者が示す人間の精神の帰る場所

「自然は、私たちの美的な、知的な、認知的な、そして精神的な充足に至るための鍵を握っている」

(Nature holds the key to our aesthetic, intellectual, cognitive and even spiritual satisfaction.)

 

アメリカの進化的生物学者であり、アリの研究で世界的な権威となったEdward Osborne Wilson(エドワード・オズボーン・ウィルソン)氏は、人間は本能的に他の生命や自然界と結びつきたいという強い欲求を持っているとする「バイオフィリア(Biophilia)」という概念を提唱した人物であることが広く知られています。

 

彼は幼い頃に事故で右目の視力を失い、さらに高音域の聴力にも障害を抱えていました。しかし、残された左目と鋭い観察眼を頼りに、地面を這う小さなアリや昆虫の世界に深くのめり込み、生涯を通じて地球上の多様な生命の営みを詳細に記録し続けました。

 

この言葉は、人間がテクノロジーや都市化によっていかに自然から遠ざかろうとも、私たちの脳や心は数百万年という進化の過程で自然環境とともに形作られてきたものであり、自然とのつながりを取り戻すことなしに真の幸福は得られないという彼の確固たる理論に基づいています。

 

彼が地球上の生物多様性の保全を世界中の人々に強く訴え続けた背景には、森が破壊され、一つの種が絶滅することは、単なる環境問題にとどまらず、人間の精神を豊かにするための貴重な財産が永遠に失われてしまうことだという深い危機感があったのだと推察されます。

自らの身体的なハンディキャップを乗り越え、顕微鏡越しのミクロの世界から地球全体の生態系というマクロの世界までを見つめ続けた彼の日々は、すべての生命への溢れるような愛情と好奇心に満ちていました。

 

自然界の奥深さを理解し、それを人々に伝え続けることは、彼にとって自らの命を最大限に輝かせるIKIGAIであったのではないでしょうか。

 

私たちが都会の生活の中で心の乾きを感じるとき、彼の言葉は、公園の木々や土の匂いの中にこそ、私たちの精神を根本から癒やし、満たしてくれる鍵が隠されていることを優しく教えてくれます。

 

地球という大きな命の連鎖の中であなただけが紡ぎ出すIKIGAIの形

未来の生命のために私たちが今日から選べる選択肢

「生きがい」を見つける方法とは、自分探しの旅に出てどこか遠くにある正解を探し当てることではありません。

それは、あなたがこれまで歩んできた豊かな経験という「土壌」の上に立ち、大切な家族や、これから未来を生きる子供たちへと、自らが持つ栄養を惜しみなく手渡していく美しく温かい循環のプロセスです。

 

今回の内容における重要な視点は以下の3点に集約されます。

 

「土壌のように見えないつながりを尊ぶこと」

地球の気候を安定させ、森全体を支えているのが目に見えない土壌であるように、目先の成果や評価にとらわれず、自然の摂理や他者とのつながりを大切にすることが、私たちの精神を根底から満たす基盤となります。

 

「マザーツリーのように次世代へ栄養を渡すこと」

自らの成長や成功を追い求める段階から一歩進み、森の巨大な木が若い苗木を育むように、これまでの経験で得た知識や愛情を、未来の世代へ手渡していく利他的な行動が、科学的にも実証された深い充足感をもたらします。

 

「日常のささやかな選択を未来への贈り物とすること」

世界を救うような壮大な使命を背負う必要はありません。海辺や森でごみを拾うこと、土に触れること、そして何より愛する人と過ごす時間を最優先にすることが、めぐりめぐって世界を良くしていく最も確実な貢献となります。

 

週末の午前、まだ空気が少し冷たく澄んでいる時間帯に、よく手入れされた公園の土の道や、身近な森を歩いてみてください。

アスファルトではない、落ち葉や土を踏みしめる柔らかな足裏の感覚を味わいながら、冬の終わりから春へ向けて準備を整える土のにおいを胸いっぱいに吸い込んでみる。

 

これまでの自分のキャリアや成果に対して、どこか物足りなさや焦燥感を感じる時は、大地に深く根を張り、何十年も変わらずにそこに立ち続ける木々の生命力にただ寄り添うことで、自らの内側に眠る「本当に守りたいもの」の輪郭がはっきりと浮かび上がってきます。

 

そのような自然の大きなつながりの中で自分自身の呼吸を整える時間が、あなたの中にあるIKIGAIの種を確実に芽吹かせる大切なプロセスとなります。

 

野生動物との交流から導き出された一人ひとりの行動の重要性

「あなたの行動は違いを生み出します。そして、あなたはどのような違いを生み出したいかを決めなければならないのです」

(What you do makes a difference, and you have to decide what kind of difference you want to make.)

 

イギリスの霊長類学者であり、国連平和大使も務めるJane Morris Goodall(ジェーン・モリス・グドール)氏は、アフリカのタンザニアにある野生のチンパンジーの群れに単身で入り込み、彼らが道具を使い、豊かな感情を持っていることを世界で初めて明らかにした人物であることが広く知られています。

 

彼女が森での観察を始めた1960年代当時、若い女性が単独でアフリカの奥地に入ることは極めて異例であり、学術的な学位を持っていなかった彼女の研究手法に対して、多くの専門家から冷ややかな目が向けられました。

 

しかし彼女が森の奥深くに留まり、何ヶ月もかけてチンパンジーたちとの信頼関係を築き上げたのは、ただ純粋に動物たちへの深い愛情があり、彼らの真実の姿を理解したいという熱烈な情熱があったからだと推察されます。

 

現在、彼女は森での研究活動を若手へ譲り、年間を通じて世界中を飛び回りながら、環境保護と次世代の教育に全精力を注いでいます。

 

この言葉は、多くの若者たちが環境問題の深刻さを前に無力感に苛まれている状況に対して、彼女が直接語りかけた際に残されたものです。彼女は、人間が日々行う食事の選択、買い物の選択、時間の使い方のすべてが、地球環境に確実に影響を与えているという事実を明確に伝えました。

 

一見すると絶望的に思える問題に対しても、一人ひとりの小さな行動の変化が集まれば、世界を確実に良い方向へ変えることができるという彼女の深い確信。

それは、長年森の中で野生動物と心を通わせ、生命の驚異的な力を目の当たりにしてきた彼女にとって、未来への希望を紡ぎ続けるための強固なIKIGAIであったのではないでしょうか。

 

私たちが自分の行動の意味に迷うとき、彼女の言葉は、どのような小さな一歩であっても、それが未来の地球にとって確かな価値を持っていることを教えてくれます。

 

「What will you leave on this planet?(あなたはこの地球に何を残しますか?)」

 

この本質的な問いへの答えは、目に見えない土壌のネットワークが今日この瞬間の命を力強く支えているように、あなたがこれから愛する家族と紡いでいく温かい時間と、未来の生命のために差し出すささやかな手の中に、すでに見出されています。

【執筆・監修:ウィングストン調査研究部】

 

当財団では、世界中の人々が一度きりの人生を大切な人とともに歩み、

自分らしく輝き続けられる社会の実現を目指しております。

 

その一環として、日本発の概念である「いきがい(IKIGAI)」に注目し、多角的な研究を行っています。

「海外から見たIKIGAIの受容」や「生涯現役で活躍する高齢女性のライフスタイル分析」など、

共有可能な知見を多数蓄積しております。

 

フォーラムへの登壇、カンファレンスでの発表、

メディア掲載のご依頼につきましては、下記担当までお気軽にお問い合わせください。

 

一般財団法人ウィングストン・ジャパン財団

 

担当:田中

 

【引用元・参考情報】

  • 日本医科大学付属病院(森林医学研究によるナチュラルキラー細胞の活性化)
  • 国連食糧農業機関・国連環境計画(Global Soil Partnership / 貯留炭素データ)
  • ブリティッシュコロンビア大学(マザーツリーと菌根菌ネットワークの研究)
  • ミシガン大学(利他的なボランティア活動と死亡リスク低下に関する追跡調査)
  • ラトガース大学(自然の草花とポジティブ感情・社会的行動に関する実証実験)
  • コロラド大学ボルダー校(マイコバクテリウム・バッカエによるストレス軽減効果の研究)
  • The Sense of Wonder – Rachel Carson
  • A Sand County Almanac – Aldo Leopold
  • Finding the Mother Tree – Suzanne Simard
  • Unbowed: A Memoir – Wangari Maathai
  • Biophilia – Edward O. Wilson
  • Reason for Hope: A Spiritual Journey – Jane Goodall
  • Rachel Carson Council(Rachel Carson Quotes)
  • The Aldo Leopold Foundation(Land Ethic Quotes)
  • University of British Columbia(Suzanne Simard / Wood Wide Web)
  • The Green Belt Movement(Wangari Maathai Quotes)
  • E.O. Wilson Biodiversity Foundation(Biophilia Quotes)
  • The Jane Goodall Institute(Jane Goodall Quotes)

 

Rachel Louise Carson氏

“Those who contemplate the beauty of the earth find reserves of strength that will endure as long as life lasts.”

(地球の美しさについて深く思いを巡らせる人は、生命が続く限り耐え抜くための力の蓄えを見出すでしょう。)

 

Aldo Leopold氏

“A thing is right when it tends to preserve the integrity, stability, and beauty of the biotic community.”

(ある行動は、それが生命共同体の完全性、安定性、そして美しさを保つ傾向があるときに正しいと言える。)

 

Suzanne Simard氏

“A forest is a cooperative system, not a competitive one.”

(森は競争的なシステムではなく、協力的なシステムである。)

 

Wangari Muta Maathai氏

“When we plant trees, we plant the seeds of peace and seeds of hope.”

(私たちが木を植えるとき、私たちは平和の種と希望の種を植えているのです。)

 

Edward Osborne Wilson氏

“Nature holds the key to our aesthetic, intellectual, cognitive and even spiritual satisfaction.”

(自然は、私たちの美的な、知的な、認知的な、そして精神的な充足に至るための鍵を握っている。)

 

Jane Morris Goodall氏

“What you do makes a difference, and you have to decide what kind of difference you want to make.”

(あなたの行動は違いを生み出します。そして、あなたはどのような違いを生み出したいかを決めなければならないのです。)

 

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