見えない力が、世界を結ぶ/動物保護と企業の取り組みから考える“命と共生の未来”

生きる力がめぐる社会へ

命について綴っていくうちに、
私自身、いつのまにか、自分の本当の気持ちと深く向き合う時間になっていました。

この章では、そんな過程を経て感じた想いとともに──
命の尊さと、そこに寄り添うさまざまな取り組みをご紹介していきます。

生き方を見つめる。命と向き合う時間

これまで、私はいくつもの「命」と向き合ってきました。

小さな瞳、やわらかな体温、そっと寄り添ってくれる存在。
それが人であれ、動物であれ、私にとって「命」とは、いつも“救い”そのものでした。

命への問いは、自己理解から始まる

今回、動物保護や福祉についてのいくつかのコラムを綴るなかで、ふと、こんな問いが浮かんできたのです。

「私たちは、自分の命にちゃんと責任を持てているだろうか?」

自分の心の声に耳を傾けているでしょうか。
自分がなぜ寂しいのか、なぜ虚しさを抱えてしまうのか。
その感情を、真正面から受け止めようとしたことはあるでしょうか。

そしてまた、動物の心を理解しようとしているでしょうか。

私たち人間は、他の動物を簡単に支配できてしまうほどの力を持っています。
だからこそ、自分の埋められない心の穴を、無意識のうちに動物たちや他人の存在で埋めようとしてはいないか──
そんな問いが、心に刺さりました。

消費されていくモノ、消費されていく命。
それを当たり前のように受け入れ、命が大切にされない社会を作ってしまっているのは、他の誰でもない、“私たち”自身ではないのか。

命を守るということは、まず「自分自身を理解すること」から始まるのかもしれません。
自分というかけがえのない存在を大切にすることが、やがてまわりのいのちを守ることにつながっていく。
そう感じるようになったのです。

そばにある存在が、心を救う

傷ついた心に寄り添ってくれた温かな光

誰かの命を思いやるように、
私たちは自分自身の命にも、ちゃんと優しくできているでしょうか。

その声を聞こうとせず、
ずっと置き去りにしてはいないでしょうか。

「どう生きたいか」という問いを、心の奥にしまい込んだままにしていないでしょうか。

いま、日本では、多くの人が“生きる”ことに迷い、苦しんでいます。
物質的には豊かになったはずのこの社会で、
本当に私たちの“心”は満たされているのでしょうか?

私自身も、自分の命を大切にできなかった時期がありました。
生きているのに、心の奥が空っぽで、
「いっそ消えてしまえたら」と思っていた日もありました。

でも、そんなときに私を救ってくれたのも、また「誰かの存在」でした。

人のぬくもり。
動物のまなざし。
ただ、そっとそばにいてくれるその存在──

それらが、静かに、でも確かに、私の心に光を宿してくれたのです。

私たちを生かしてくれる記憶

寂しさや悲しさ、不安や痛み。
それらの感情は、誰の中にもあるものです。

でもその感情は、
やがて「気づき」や「やさしさ」、そして「思いやり」や「愛しさ」へと変わっていくものなのかもしれません。

私は命に、それを教えてもらいました。

そうして少しずつ、私の中にもまた、
温かな光──生きる力が戻ってきたのです。

心の中にエネルギーとして生き続ける

命と向き合うということは、「どう生きたいか」という問いに、自分自身で答えていくこと。

動物たちは、その答えを、私たちの心にそっと映してくれます。

このコラムを書くにあたり、私は、これまで共に過ごしてきた動物たちのことを思い出しました。

名前を呼ぶと顔を向けてくれたこと。
何気ない日々を共に過ごしたこと。
小さな体で、ただ静かに寄り添ってくれたこと。

懐かしさと愛しさが胸いっぱいに広がり、気づけば涙がこぼれていました。

そして、気づいたのです。

姿かたちは見えなくなっても、こうして、
その命はエネルギーとして存在している。
今も私の中で生き続けていると。

共に過ごした思い出が、命の証になる

「私たちは、いったい何のために生きているのだろう?」
「この命は、いったい何を伝えようとしているのだろう?」

そんな問いの答えは、きっと誰かから与えられるものではなく、
自分自身の中から見つけていくもの。

生きる理由とは、誰かとつながることの喜び、
そして「生きていてよかった」と心から思える瞬間。

それらを見つける旅こそが、
“生きる”ということなのかもしれません。

生きる意味は、自分の中にある

動物の命を守るということは、
決して「かわいそうな命を救うこと」ではありません。

それは、命が本来持っている美しさや力を信じ、
「ともに歩んでいこう」と手を取り合うこと。

この地球に生まれ、
この時代を共に生きる奇跡のような命たち。
出会い、支え合い、つながりながら生きていく。
それは何よりも尊いことです。

あなたの命は、この世界にたったひとつだけの、かけがえのない光です。

そしてその光は、
誰かの心の闇を照らし、未来を変える力を持っています。

そんな想いや祈りに、心を重ねながら。
ここからまた、新たな命の物語を紡いでいきましょう。

この文章が、
あなた自身の命、そして誰かの命に、
優しく温かな光を届けられますように。

小さな行動が、未来を変える力になる。

生きていてくれて、ありがとう。
どうかこれからも、一緒に生きていきましょう。

保護犬が教えてくれた愛のかたち/Theo and Beauの物語

命のことを考えるとき、
私たちはときに、「どう守ればいいのか」「何をすべきか」と、答えを探そうとしてしまいます。

でもきっと、命の本質はもっとシンプルで、
もっとやさしくて、癒しと安らぎを感じるものなのかもしれません。

そんなことを伝えてくれる物語があります。
アメリカ・カリフォルニアに暮らすひと組の親子と、1匹の保護犬が紡いだ「命の記録」です。

「ともに生きる」ことの尊さを写真で伝える絵本

アメリカ・カリフォルニアに住むママブロガー ジェシカ・シャイバ(Jessica Shyba) さんは、3人の子どもを育てる母であり、日々の暮らしをブログやSNSで発信していました。

ある日、彼女の家族は地元の動物保護施設から1匹の保護犬を迎えます。それが、まだ幼い雑種犬のセオ(Theo) でした。

当時、生後数ヶ月の三男 ボー(Beau) とセオは、まるで「ずっと一緒にいたかのように」一瞬で打ち解け、出会ったその日から毎日ぴったり寄り添って昼寝をするようになりました。

ジェシカさんは、その愛らしい光景を写真に撮り始めます。
・ベビーベッドで眠るボーの隣に、セオも同じ姿勢で丸くなって眠る
・小さな手足が犬の体にそっと重なり、深く安らいだ顔
・成長するにつれて、ボーはセオに絵本を読んだり、耳元で話しかけたり
・やがてセオが年を取り、動きがゆっくりになってからも、今度はボーが優しく寄り添い見守るように……

「命を共にする」とはこういうことかもしれない。

そう教えてくれるような、まさに「生まれてから死を迎えるまで」の日常と愛のドキュメンタリーでした。

この写真シリーズはSNSで瞬く間に話題となり、ジェシカさんはその写真をまとめて『Naptime with Theo and Beau』という本を出版。アメリカを中心に世界中で感動を呼びました。

多くの読者が口を揃えて言います。
「こんなにもいとおしく、やさしくて、心に響く命の記録を見たことがない」と。

人と動物がともに生きることの意味。
命のあたたかみ、寄り添うということ、そして別れのさみしさまでも。
何気ない日常のなかに、すべてが大切に詰まっているのです。

保護動物と子どもが紡ぐ、命の記録

誰かを救うことや癒すことは、
決して一方通行ではありません。

人と動物が出会い、心を通わせ、共に生きること──
それだけで、命の価値はもう充分に輝いている。

この物語を知ったとき、私はあらためて「保護とは何か」を考えさせられました。

セオとボーの物語には、心にじんわりと沁みわたる、保護犬との暮らしと、日常に宿る命の奇跡が描かれています。

「いのちを守る」という言葉は一見とても強く響きます。
けれどこんなふうに、「ただ一緒にいること」の尊さも、忘れずにいたいものです。

保護活動も、福祉も、支援も、
本質はきっと、“支える”ことではなく“共にいる”こと。

それをセオとボーは、何年もの時間をかけて、私たちに教えてくれたように思います。

私たちのすぐそばにも、こんなふうに、
あたたかな命との出会いが、きっとあるのかもしれません。

※本エピソードは、Jessica Shyba著『Naptime with Theo and Beau』(Feiwel & Friends, 2015)および、彼女のInstagram投稿をもとに紹介しています。
Jessica氏のInstagram(@mommasgonecity)では、実際の写真と共にセオとボーの日々をご覧いただけます。

【『Naptime with Theo and Beau』について】

著者:Jessica Shyba(ジェシカ・シャイバ)
ボーの母親であり、ライフスタイルブログ「Momma’s Gone City」の執筆者。
Feiwel & Friends(アメリカ):2015年2月発行

・書籍の発売前から、ジェシカ・シャイバさんのInstagram投稿は1枚で10万以上のいいねを獲得し、Facebookでは数百万回シェアされるなど、世界中の心を優しく揺さぶりました。
・「TIME」「Today」「People」「Buzzfeed」など国内外のメディアや世界的メディアでも多数紹介されるほどの大反響に。
・「Naptime with Theo and Beau」は、出版と同時にAmazonで絵本部門のベストセラー入りを果たす。
・書籍化をきっかけに、ジェシカさんは子ども×動物×家族の価値を伝えるインフルエンサーとして活動。
・「Theo and Beau」の後も、保護動物の重要性や家族との絆を発信しています。

癒しを超えて“支え”となる存在に/アニマルセラピーの力

科学が証明する動物の力/心と身体を支える命

人と動物が共に暮らすことで、私たちの心や体にも、確かな変化が起きることが、医学や心理学の分野でも明らかになっています。

アニマルセラピー(動物介在療法)は、長年にわたって高齢者施設や医療現場で活用されており、たとえば以下のような効果が科学的に示されています。

・認知症高齢者の情緒の安定やうつ症状の緩和
・PTSD(心的外傷後ストレス障害)のある戦争帰還兵へのトラウマ軽減
・発達障害や不登校の子どもにおける情緒の安定と対人関係の改善

実際、2024年に厚生労働省が発表した調査によれば、

・保護犬と暮らす高齢者は、暮らしていない人と比べてうつ症状の発症率が約34%低下
・孤独感の軽減や、自己肯定感の向上を実感する人が7割以上
という結果が出ています。

命の存在が、こんなにも誰かの心を守り、人生を支えているのです。

「救われた命」が、人の人生を救っている

保護された犬や猫は、ただ「助けられた存在」ではありません。
むしろその命が、人の人生を支え、癒し、希望を与えてくれる。

私たちが「守っている」と思っていたその命が、
実は「私たちを守ってくれていた」のかもしれない──

そんなふうに感じさせてくれる事例は、今や世界中にあふれています。

命にやさしい企業の取り組み/社会に広がる“共生”のかたち

動物や自然環境への配慮が、企業活動にも求められるようになってきた今。
少しずつではありますが、「命との共生」を大切にする動きが、企業の間でも広がり始めています。

たとえば、日常の中で目にするこんな企業にも、命へのまなざしがあります。

ネスレの動物福祉とサステナビリティ戦略

「ネスカフェ」で知られるネスレ日本株式会社は、食品・飲料業界の世界最大手として知られる一方、動物福祉・サステナビリティへの強い意識を持つ企業でもあります。

・2014年より、国際的なアニマルウェルフェア基準「動物福祉の5つの自由」に基づくポリシーを導入。
→ケージフリー卵の使用、成長ホルモン不使用、ストレス軽減を意識した畜産管理など。
・ペットフードブランド「ネスレ ピュリナ」を通じて、保護動物支援・寄付キャンペーンなども実施。
・環境分野では「再生型農業(リジェネラティブ農業)」を推進し、野生動物の生息地保全や生物多様性への貢献も目指しています。

このように、食品メーカーという枠を超えて、命あるものすべてに心を向けたものづくりと支援を続けている姿勢に、深い想いを感じます。

マルコメ株式会社/“食の選択”から広がる命への配慮

味噌・発酵食品で知られるマルコメ株式会社もまた、命にやさしい食の選択肢を広げることで、動物や自然環境への配慮を実現している企業です。

・動物性食品不使用の「大豆ミート」「植物性チーズ」「ヴィーガン対応のインスタント味噌汁」などを展開。
→ 肉や乳製品の消費を控えたい人々にも、手軽で美味しい代替食品を提供。
・容器には再生可能資源を使ったバイオマス素材やプラスチック削減型パッケージを導入。
・商品コピーやCMでも「やさしさ」「家族」「思いやり」など、人と人との関係性を大切にした共感型ブランディングを展開。

食べるものの選択が、命を大切にする行動につながる──。
そんな価値観を、日常に自然に届けてくれる企業のひとつです。

犬と働くオフィスがもたらす心の豊かさ

命との共生は、食品業界だけでなく、働き方や企業文化の面でも広がりつつあります。

・サイボウズやfreee株式会社などでは、犬などのペットと一緒に出社できる「ペット同伴出社制度」を導入。
→ 社員の幸福度向上、チーム内コミュニケーションの円滑化、ストレス軽減に効果あり。

・アメリカのAmazon本社では、常時数千匹の犬が出社している“犬OKオフィス”の文化を持っています。
・米人事コンサル企業Banfieldの調査によると、ペット同伴企業では生産性が平均22%向上したとの報告もあります。

もちろん、動物アレルギーや安全管理などの課題もありますが、
命の存在が働く人々の心を和らげ、社会の最小単位ともいえる“職場”に温もりをもたらしていることは、確かな事実です。

こうした企業の取り組みは、命を守ることにとどまらず、誰もが思いやりの中で生きられる社会
を育てていくことにもつながっています。
「動物たちは癒しの存在であると同時に、心と社会を結び直す“橋渡し”の役割を果たしている」。
今、そうした考え方が、少しずつ広がってきているのです。

小さな命への心くばりが、明日の社会を変える一歩になるかもしれません。
そんなふうに、私たち一人ひとりの行動が、
全ての命が輝く、希望に満ちた未来を築いていくのではないでしょうか。

見えない力が、社会を変えていく/アインシュタインの「愛」から考える

「支え合い」は“目に見えない力”の証

最後に、私の心に深く残っている言葉をご紹介させてください。

「人類が生き延びるには、“愛”という新しいエネルギーを学ばなければならない。
私たちが目に見えないエネルギーの中でもっとも強力なもの、それが“愛”です。

愛は光です。愛は引力です。愛は力です。

愛は他人を思いやることができる力であり、他者とつながる力であり、
生きとし生けるものを支えあわせる、いちばん強い力なのです。」

──アルベルト・アインシュタイン(とされる手紙の一節より)

この言葉は、彼が晩年、娘に宛てたとされる手紙のなかに記されていたものだそうです。
(ただし、現存する公式な書簡には収録されておらず、その真偽については明らかではありません。)

けれど私は、この言葉に深く心を揺さぶられました。

きっと彼が“愛”と呼んだのは、
人間に本来備わっている、底知れぬ美しさと尊厳の力。
それは、争いではなく、支え合うことで世界を動かす内なるエネルギーなのだと思います。

愛は、目には見えなくとも、
そのつながりは、たしかにこの世界を変えていく。
そんな力を秘めているのだと、私は感じました。

世界を結びなおす力としての“愛”

私が出会ってきた動物たちは、
目には見えない贈り物を、たくさん与えてくれました。

その小さな命の輝きや存在が、
私の人生を何度も支えてくれたのです。

一つの命が誰かを照らし、
その光がまた次の命をそっと包み込む。
そんなふうに、私たちはきっとつながっている。

あなたの命も、私の命も、動物たちの命も、
すべては、同じ世界に在るかけがえのない命。

だからこそ、誰ひとり取り残されないように、
手を取り合って、共に歩んでいけたなら。

命を守るという行動は、特別なことではなく、この世界を結びなおす力なのではないでしょうか。

すべての命が、まばゆい光を響かせ合えるように

私たちが守りたいのは、
誰かの命だけではなく、
ともに生きていく世界そのものなのかもしれません。

命と命が支え合い、
愛と、ほんの少しの思いやりがめぐる日常。
誰もが、自分の命を安心して生きられる場所。

私たちは、
そんな“調和と共生”に向かう道を、
今日という一歩から選んでいくことができます。

どうか忘れないでください。
あなたの命にも、世界を導く力があるということを。

プロフィール画像
Mermaid nao/抽象画アーティスト
抽象画アーティスト。命の尊さと心の調和をテーマに、
八百万の神や日本文化の精神性、人魚姫の物語から着想を得て作品を制作。
2025年は国際カンファレンス「THE WING TOKYO」にて展示・スピーチ参加。
6月〜8月、山形の老舗旅館「名月荘」にて宿泊者限定ギャラリー展を開催。
WEBメディア『プロフェッショナルの選択』にも掲載。
アートを通して命の可能性と美しさを追求している。
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