関係性の中で育つIKIGAI|一人では完結しない「間」に宿る生きがいの真実

自己完結の枠を超えて|関係性が導くIKIGAIの新たな地平

これまでの歩みのなかで、数え切れないほどの重責を担い、論理と知性を武器に社会の第一線を駆け抜けてこられた皆様は、すでに揺るぎない地位や実績を確立されていることと存じます。日々の業務において、あらゆる複雑な課題を俯瞰し、緻密な分析に基づいて最適な解を導き出すその明晰な思考力は、周囲からの深い尊敬と信頼を集めています。ご自身の決断が、多くの人々の生活を支え、事業を成長させ、ご家族を守り抜いてきたという事実は、誰にも否定できない輝かしい成果です。

しかし、物質的にも社会的にも十二分に満たされた状態にあり、周囲から見ればすべてを手にしているように映る現状であっても、ふとした折に、言葉にはしがたい問いが胸をよぎることはないでしょうか。これまでの道のりを駆け抜け、一つの到達点に立ったからこそ見える景色のなかで、「これからの人生の時間をより価値のあるものにしたい」「大切な人と共に、より有意義な時間を過ごしたい」という、極めて深遠で尊い渇望が芽生えているはずです。それは決して現状に対する不満などではなく、知性と感性を極限まで研ぎ澄ませてこられた方だからこそ抱く、純粋な内面からの声に他なりません。

世の中に溢れる多くの情報は、私たちに対して「自分だけの情熱を見つけ出せ」「究極の目的を己の内に探せ」と声高に語りかけ、生きがいを「個人の内側で完結するもの」として描き出します。しかし、圧倒的な経験と知恵を持つ皆様であれば、人間の深い充足感が、決して一人きりの密室で生まれるものではないことに、すでにお気づきのはずです。近年、この「他者との関係性」と「内面的な充足」の密接な結びつきに関する社会的な関心は、学術的および実務的な領域の双方において、かつてないほどの高まりを見せています。

2025年5月20日、米国の権威ある大学の公式メディアにおいて、87年という途方もない歳月をかけて行われてきた「成人発達研究」の最新の知見が公開されました。この世界最長規模の追跡調査が導き出した結論は、人々を健康で幸福にする最も強力な要素は、富や名声、あるいは個人の卓越した能力などではなく、「家族や友人、そしてコミュニティとの良好で温かな関係性」であるという、極めて明白な事実でした。個人の努力や自己完結型の目標達成以上に、誰かと心を交わす経験こそが、人間の生命力を根底から支えることが実証されたのです。

続いて2025年8月19日には、神戸市環境局や大学機関等が連携した「ウェルビーイングの実現に資する社会的つながりの新たな推定・評価方法の確立」に関する研究成果が公表されました。この調査では、地域の資源回収ステーションの設置や、世代を超えた交流の場が、地域住民の間に自然な「社会的つながり」を育み、それが人々の精神的な良好さに多大な貢献をしていることが高く評価されました。人々が集い、言葉を交わし、共通の時間を過ごすという微細な関係性の集積が、孤立を防ぎ、生きる活力を生み出す強大な源泉となることが明確に示されています。

さらに2026年3月2日、シンクタンクであるSOMPOインスティチュート・プラスが「幸福度研究会フォローアップ報告書~生きがいと希望を支えるつながり~」を公表しました。この詳細な統計分析の結果、人々の実際の幸福度に最も強く、そして直接的に影響を与えている要因が「生きがい・未来への希望」と並んで「交友関係・人間関係」であることが実証されました。経済的な基盤が整った後に人間が本能的に求めるのは、孤高の達成感ではなく、他者と響き合う温かな結びつきなのです。

ドイツの言語学者であり哲学者でもあったヴィルヘルム・フォン・フンボルト氏は、次のような言葉を残しています。

「根本において、私たちの人生に価値を与えるのは、他者との関係である」

この言葉が示す通り、「IKIGAI」あるいは「いきがい」とは、ご自身の手のひらのなかだけで見つけるものではなく、大切な他者との「間」に育まれるものです。本記事では、皆様がこれまで培ってこられた高度な知性と豊かな感性を基盤とし、夫婦、親子、仕事の相棒、そして一期一会の出会いという多様な関係性のなかで、生きがいがいかにして生まれ、深まっていくのかを、歴史を動かした実例とともに深く探求してまいります。

夫婦という最も身近な他者|共有する時間が編み出す生きがい

多くの時間を共に過ごし、人生の喜怒哀楽を分け合ってきた夫婦やパートナーという存在は、私たちにとって最も身近でありながら、時に最も理解が難しい他者でもあります。長年にわたり事業や社会的な責任を背負い、戦い続けてきた皆様にとって、家庭は心休まる場所であると同時に、日々の忙しさのなかで、パートナーとの深い対話が後回しになってしまうこともあったのではないでしょうか。経済的な安定を築き上げ、子育てもひと段落した今、改めて向き合うパートナーとの時間は、これからの人生におけるIKIGAIを形作るための最も豊潤な土壌となります。

夫婦の間で育まれる生きがいは、単に「同じ空間にいること」から生まれるのではありません。それは、全く異なる背景と価値観を持つ二人の人間が、互いの違いを認め合いながら、同じ方向を見つめ、共通の情熱や目的を分かち合う過程において生み出されるものです。個人的な趣味や目標をそれぞれが持つことも重要ですが、二人の間に「共に心血を注げる何か」が存在する時、その関係性は単なる同居人という枠を超え、魂の奥底で共鳴し合う比類なき結びつきへと昇華します。

この「夫婦の間に宿る強烈なIKIGAI」を、極限の環境下で見事に体現した実在の人物として、フランスの世界的火山学者夫妻であるモーリス・クラフト氏とカティア・クラフト氏の軌跡をご紹介しましょう。1960年代に出会い、火山への抑えきれない情熱という共通項で結ばれた二人は、「地球の鼓動を間近で観察し、火山の謎を解明するとともに、その圧倒的な美しさと脅威を人々に伝える」という、壮大で危険に満ちた生きがいを共有していました。

彼らの毎日は、平穏な日常生活とは全く無縁のものでした。世界のどこかで火山が噴火したと聞けば、いかなる予定もキャンセルし、直ちに機材を抱えて現地へと飛ぶ。摂氏1000度を超える溶岩が噴き出し、有毒ガスが立ち込める火口の縁に立ち、顔を火傷しながらもカメラを回し続ける。常人であれば恐怖で逃げ出すような極限の環境下において、彼らは決して互いを置いていくことはありませんでした。モーリス氏は映像を撮影し、カティア氏は詳細な科学的データを記録するという、完璧に補完し合う関係性を築き上げていました。

彼らの間に存在していたのは、単なるロマンチックな愛情だけではありません。地球という巨大な生命体の秘密に迫るという、個人の枠を完全に超越した巨大な目的を共有する「究極の同志」としての深い絆でした。彼らは自らの活動について、「私たちは火山に恋をしている。そして、二人でいるからこそ、この恐ろしくも美しい対象に向き合うことができるのだ」と語っていました。夫婦であると同時に、最高の実務的パートナーであり、そして命を預け合う唯一無二の存在であったのです。

彼らは長年にわたり、数え切れないほどの活火山の映像とデータを残し、それが後の火山学の発展と、火山災害からの避難計画の策定に多大な貢献を果たしました。1991年、日本の雲仙普賢岳における大規模な火砕流に巻き込まれ、二人は共にその生涯を閉じることになりますが、彼らが残した膨大な記録と、二人三脚で歩み抜いたその姿勢は、今もなお世界中の人々に深い感銘を与え続けています。

クラフト夫妻の物語は、極めて特異な例かもしれません。しかし、ここから私たちが学べる本質は、「IKIGAIは、一人で抱え込むよりも、誰かと共有することでその熱量と深さを何倍にも増幅させることができる」という事実です。皆様も、ご自身のパートナーと、これからの人生で「共に心を震わせるもの」を探してみてはいかがでしょうか。それは、未知の国への旅行の計画を立てることでも、共に新しい芸術や学問を学ぶことでも、あるいは地域の小さな課題に二人で取り組むことでも構いません。二人の「間」に共通の目的を置くこと。それこそが、成熟した関係性をさらに美しく彩る、生きがいの源泉となるのです。

相棒との間に宿る創造性|仕事の枠を超えた深い信頼の形

夫婦関係に次いで、あるいはそれと同等かそれ以上に、私たちの人生の大部分を占め、深い影響を与えるのが、仕事における「相棒」や「共同作業者」との関係性です。経営のトップとして、あるいは高度な専門職として組織を牽引してこられた皆様には、これまでの過酷な決断の連続のなかで、ご自身の背中を預け、苦楽を共にしてきた特別な他者がいらっしゃるはずです。利益の追求や組織の拡大という表面的な目標の奥底で、その人物と共有してきた深い価値観や、言葉を交わさずとも通じ合う信頼感こそが、皆様の職業人生における強靭なIKIGAIの正体であったと言っても過言ではありません。

ビジネスの世界においては、能力やスキルの高さが評価の基準とされがちです。しかし、真に偉大な事業や、社会の構造を根本から変革するような創造性は、単独の天才の頭脳から生まれるよりも、全く異なる才能を持った二人の人間が、深い信頼関係のもとで激しくぶつかり合い、そして融合する過程において生み出されることが圧倒的に多いのです。ご自身の弱点を相手が補い、相手の直感をご自身の論理が形にする。この相互補完の関係性のなかに、一人では決して到達できない高次元の生きがいが宿ります。

この「相棒との間に宿る圧倒的な創造性と生きがい」を歴史に刻んだ代表例として、米国の世界的テクノロジー企業であるヒューレット・パッカードの創業者、ウィリアム・ヒューレット氏とデビッド・パッカード氏の軌跡が挙げられます。1930年代後半、スタンフォード大学の同級生であった二人は、カリフォルニア州パロアルトの小さなガレージで会社を立ち上げました。このささやかな出発が、後にシリコンバレーという世界の技術革新の中心地を生み出すことになります。

二人の関係性は、まさに奇跡的なまでの補完関係にありました。ヒューレット氏は、天才的な技術的直感と創造力を持つエンジニアであり、次々と画期的な製品のアイデアを生み出す才能に溢れていました。一方のパッカード氏は、卓越した経営手腕と組織運営の才能を持ち、ヒューレット氏のアイデアを現実のビジネスとして成立させ、市場に送り出す力を持っていました。彼らは互いの才能に対する深い敬意と絶対的な信頼を持っており、いかなる困難な状況に直面しても、その絆が揺らぐことはありませんでした。

彼らの間に育まれたIKIGAIは、単なる「企業の利益を最大化する」というレベルに留まりませんでした。彼らが共有していた最も深い信念は、「技術の力を用いて人々の生活を向上させること」、そして「従業員を心から尊重し、彼らが存分に能力を発揮できる環境を作ること」でした。彼らは、当時の米国企業では極めて珍しかった、従業員への利益分配制度や、個人の自主性を重んじる柔軟な働き方を次々と導入しました。この「人間尊重」の哲学は、後に「The HP Way」として世界中の企業経営に多大な影響を与えることになります。

二人の歩みは、決して平坦なものではありませんでした。事業の急拡大に伴う組織の混乱や、ライバル企業との激しい競争など、数え切れないほどの試練に直面しました。しかし、彼らは常に二人で膝を交えて徹底的に対話し、時には激しい議論を交わしながらも、最終的には必ずお互いが納得する道を見つけ出しました。パッカード氏は後年、「私たちの最大の強みは、常に互いを信頼し、共通の目的に向かって歩み続けたことだ」と回想しています。

彼らの物語が教えてくれるのは、真の仕事の相棒とは、単に業務を効率的に分担する存在ではなく、ご自身の内なる可能性を極限まで引き出し、共に「この世界にどのような価値を残すのか」という哲学を共有できる存在であるということです。皆様がこれからの活動を思い描く際、ご自身の知見と経験を誰と掛け合わせるのか。ご自身の価値観に深く共鳴し、ともに新たな価値を創出できる他者を見出し、その関係性を慈しむこと。それこそが、これからの時間をより有意義で、魂が震えるような喜びに満ちたものにするための、重要な鍵となるのです。

一期一会の交わりが人生を変える|偶然の出会いに潜む必然の力

夫婦や長年の仕事の相棒といった、時間をかけて培われる継続的な関係性の中にIKIGAIが存在する一方で、人生には、ほんの一瞬の交わり、いわゆる「一期一会の出会い」が、その後の生き方を決定的に変えてしまうほどの強烈な光を放つ瞬間があります。長年、固定された組織や人間関係のなかで重責を担ってこられた皆様にとって、現在の枠組みから完全に離れた場所で、全く異なる背景を持つ他者と純粋に交わる経験は、枯渇しかけていた感性を劇的に蘇らせる力を持っています。

地位や肩書き、あるいはこれまでの実績といった重い鎧をすべて脱ぎ捨て、一人の無垢な人間として見知らぬ他者と向き合う時。そこには利害関係も、義務感も存在しません。ただ、お互いの存在そのものを尊重し、純粋な好奇心と敬意を持って言葉を交わす。その刹那の交流のなかで、思いもよらない視点を与えられ、ご自身の内に深く眠っていた情熱の火種が突然燃え上がるのです。このような一期一会の出会いは、決して偶然の産物ではなく、人生の意味を求め続ける感性が引き寄せた、必然の導きであると言えます。

この「国境や文化を超えた一期一会の出会い」が、極めて巨大な歴史的遺産と、二人の人間の間に深い生きがいを生み出した実例として、米国の世界的建築家であるフランク・ロイド・ライト氏と、日本の実業家であり当時の帝国ホテル支配人であった林愛作氏の深い絆の物語をご紹介しましょう。1910年代後半、林氏は、東京の中心に日本の近代化を象徴する、世界に誇れる迎賓館としての新しい帝国ホテルを建設するという途方もない計画を推進していました。彼は、その設計を任せるべき人物として、当時米国で独自の有機的建築を提唱していたライト氏に白羽の矢を立てました。

ライト氏と林氏の出会いは、単なる「発注者と設計者」というビジネスの枠を瞬時に超えるものでした。林氏は、ライト氏が持つ芸術への狂気にも似た情熱と、自然と調和する建築哲学に深い感銘を受け、彼こそが日本の美意識を西洋の技術で見事に体現できる唯一の天才であると確信しました。一方のライト氏も、自身の理想を深く理解し、一切の妥協を許さずに最高のものを創り上げようとする林氏の強靭な意志と教養に、強い共鳴を覚えました。全く異なる文化背景を持つ二人の間に、「歴史に残る最高の芸術作品を共に創り上げる」という、熱狂的なIKIGAIが共有されたのです。

しかし、その道のりは想像を絶する困難の連続でした。ライト氏の要求する完璧な素材や複雑な設計は、当時の日本の建築技術の限界をはるかに超えており、建設費用は当初の予算を桁違いに超過していきました。工期も大幅に遅れ、経営陣や出資者からの猛烈な批判が林氏に集中しました。「あのような外国人建築家は直ちに解雇せよ」という圧力が日々強まるなか、それでも林氏は、自らの地位と名誉を懸けてライト氏を守り抜きました。「彼の芸術を信じている。この建築は必ず日本の誇りになる」という、理屈を超えた深い信頼があったからです。

結果として、林氏は予算超過の責任を取る形で、ホテルが完成する前に支配人の座を追われることになります。ライト氏もまた、一部の設計を残したまま米国への帰国を余儀なくされました。二人の直接的な交流はそこで途絶えました。しかし、彼らが共有した情熱の結晶である帝国ホテル旧本館(通称ライト館)は、1923年の関東大震災の猛烈な揺れにも見事に耐え抜き、その比類なき美しさと強靭さで世界中から賞賛を浴びることになります。

林氏とライト氏の交わりは、人生の長さから見ればほんの一瞬の出来事に過ぎなかったかもしれません。しかし、二人が互いの魂の奥底で響き合い、すべてを懸けて一つの理想を追い求めたそのプロセスそのものが、彼らの人生における最高の生きがいとして、永遠の価値を刻んだのです。皆様がこれから歩まれる日常のなかでも、旅先でのふとした会話、趣味の場での出会い、あるいは世代の全く違う若者との短い対話のなかに、ご自身の価値観を根底から揺さぶるような一期一会が待っているかもしれません。過去の肩書きに縛られず、常に心を開き、新たな他者との交わりを歓迎する姿勢こそが、予想もつかない豊かなIKIGAIを皆様の元へと運んでくるのです。

世代を越えて受け継がれる想い|親子関係における生きがいの変容

私たちが他者との間に築く関係性のなかで、最も深く、そして最も複雑な変化を遂げるのが、親子関係における生きがいの形です。これまで、ご自身の事業の成功と同じくらい、あるいはそれ以上に、お子様の成長と幸せを願い、あらゆる支援を惜しまず、力強く導いてこられたことでしょう。子どもが幼い頃は、「この子を守り、育てること」そのものが、親にとって極めて強力で明確なIKIGAIとして機能します。しかし、お子様が成長し、自立の道を歩み始めるにつれて、親が果たすべき役割は劇的に変化し、それに伴って生きがいの形もまた、新たな次元へと移行していく必要があります。

多くの親が、子どもが自立していく過程で、強い喪失感や、自分が不必要になったかのような空虚感を覚えます。これは、長年「保護者」や「指導者」として自己を定義してきた結果として生じる、極めて自然な感情の揺らぎです。しかし、真の成熟した親子関係におけるIKIGAIとは、子どもを管理し、自分の理想通りに導くことではなく、自立した一人の人間としての彼らの歩みを深く尊重し、少し離れた場所から温かく見守ることへと変化していくべきものです。それは「手をかける」ことから、「心を寄せる」ことへの、美しくも難しい移行のプロセスに他なりません。

この「親から子へと受け継がれる、言葉を超えた生きがいの継承」を見事に体現した歴史的な実例として、フランスの印象派を代表する巨匠、ピエール=オーギュスト・ルノワール氏と、その次男であり、後に映画史に不滅の金字塔を打ち立てることになる映画監督、ジャン・ルノワール氏の親子の物語をご紹介しましょう。

父オーギュスト氏は、その生涯を通じて、光と色彩に溢れた美しい絵画を描き続け、世界的な名声を確立していました。しかし彼の晩年は、重度のリウマチによる激しい肉体的な苦痛との戦いでした。病は彼の関節を無残に歪め、ついに筆を握ることすらできなくなってしまったのです。しかし、彼の絵画に対する情熱、すなわち芸術家としての強烈なIKIGAIが消えることは決してありませんでした。彼は動かなくなった自分の手に、包帯で筆を縛り付けてもらい、痛みに耐えながら、命が尽きる直前までキャンバスに向かい続けました。

当時、青年であった息子ジャン氏は、その壮絶な父の姿を一番近くで見つめ、献身的に介護を続けていました。ジャン氏は当初、偉大すぎる父の影にプレッシャーを感じ、自分がどのような道を歩むべきか迷いの中にありました。父オーギュスト氏は、息子に対して「画家になれ」と強要したり、自らの芸術論を押し付けたりすることは一切ありませんでした。ただ、ご自身のすべてを懸けて美を追求し続けるその背中と、生きる喜びに満ちた絵画を無言で描き続ける姿を、息子に示し続けたのです。

ジャン氏は、筆を縛り付けた手で絵の具を置く父の姿から、いかなる困難な状況にあっても決して諦めない「表現への執念」と、人生のあらゆる瞬間を慈しむ「対象への深い愛情」を、魂の奥底で学び取りました。父の死後、ジャン氏は絵画ではなく、当時まだ新しい表現手法であった「映画」の世界へと身を投じます。そして、父がキャンバスに描いた人間の温もりや、自然の光の美しさを、今度は映画という全く別の形でスクリーンに見事に表現し、世界最高の映画監督の一人として歴史に名を残すことになりました。

父オーギュスト氏のIKIGAIは、絵画という形を通じて、見事に息子のジャン氏へと受け継がれ、そして新たな花を咲かせました。この物語が私たちに教えてくれるのは、子どもに対する最高の贈り物は、財産や地位を引き継ぐことではなく、親自身が自らの人生を情熱を持って生き抜く姿そのものを見せることだという事実です。

皆様がお子様や次世代の若者たちに対してできる最大の貢献は、彼らに直接的な指示を出すことではなく、皆様ご自身がこれからの人生を深い充足感とともに歩み、日々の小さな喜びに満ちた姿を示すことです。役割を手放したあとに見えてくる、一人の人間同士としての純粋な愛情と敬意。それこそが、世代を超えて連鎖し、人類の精神を豊かにし続ける、最も深遠な関係性の生きがいなのです。

共に歩む喜びを明日へ|関係性のなかで育つ豊かな未来

人生の成熟期における「IKIGAI」とは、世界中のどこかにある特別な宝物を一人で探し出すような行為ではなく、ご自身のすぐそばにいる大切な人々との「間」に、日々の微細な交わりを通じて育まれていくものです。本記事では、皆様がこれからの時間をより有意義に、そして深い充足感とともに歩んでいただくための重要な視点を探求してまいりました。

第一に、夫婦やパートナーとの間に、お互いの魂を響かせるような共通の目的を置き、そのプロセスを深く共有すること。第二に、仕事や社会活動において、ご自身の可能性を引き出してくれる相棒を見出し、利益を超えた深い信頼関係を築くこと。そして第三に、親子や次世代との関係性において、直接的な指導を手放し、自らが情熱を持って生きる背中を通じて、言葉なき想いを継承していくことです。

フランスの哲学者、エマニュエル・レヴィナス氏の思想に基づく極めて重要な視座があります。

「人間は、他者の顔と向き合うその瞬間に、自らの生きる意味を発見する」

この言葉が示すように、私たちは自分自身の内側だけをどれほど深く見つめても、真の答えを得ることはできません。目の前にいる他者の喜びを分かち合い、その痛みに寄り添い、共に歩もうとするその瞬間にのみ、私たちの命は圧倒的な輝きを放つのです。

最後に、明日からご自身の日常のなかですぐに実践できる、極めて小さな行動の具体案を一つご提案いたします。

明日の夜、あるいは週末の穏やかな時間に、ご自身のパートナー、あるいは長年苦楽を共にしてきた最も親しい友人に対して、仕事の業績や将来の計画について語るのを一度だけ完全に封印してみてください。そして、「最近、理屈抜きに面白いと感じたことは何か」「時間を忘れて没頭したことは何か」とだけ問いかけ、いかなる評価も助言も交えずに、ただその方が語る言葉と、表情の機微に深く耳を傾けてみてください。ご自身の主張を一旦脇に置き、目の前の大切な他者の内面にある純粋な喜びに触れるその短い時間こそが、皆様の間に眠る豊かな生きがいを呼び覚ます、最も確実な第一歩となります。

皆様がこれまで築き上げてこられた輝かしい実績と知恵は、決して過去の遺物ではなく、これからの人生で出会う人々、そして共に歩む人々と、より豊かで深い関係性を築くための強靭な土台です。社会的な役割や義務感という重い鎧を少しずつ脱ぎ捨て、心を開いて他者と響き合う時、世界は再び、驚きと希望に満ちた鮮やかな姿で皆様の前に広がっていくことでしょう。

「What will you leave on this planet?(あなたはこの地球に何を残しますか?)」

この壮大な問いへの答えは、複雑な理論や事業計画書のなかではなく、皆様が明日、大切な誰かに向ける温かな眼差しの向こう側に用意されています。皆様のこれからの歩みが、かけがえのない方々との深い絆と、心からの喜びに満ちた素晴らしい時間となりますことを、深く願っております。

【執筆・監修:ウィングストン調査研究部】

当財団では、世界中の人々が一度きりの人生を大切な人とともに歩み、自分らしく輝き続けられる社会の実現を目指しております。

その一環として、日本発の概念である「いきがい(IKIGAI)」に注目し、多角的な研究を行っています。

「海外から見たIKIGAIの受容」や「生涯現役で活躍する高齢女性のライフスタイル分析」など、共有可能な知見を多数蓄積しております。フォーラムへの登壇、カンファレンスでの発表、メディア掲載のご依頼につきましては、下記担当までお気軽にお問い合わせください。

一般財団法人ウィングストン・ジャパン財団

担当:田中

【引用元・参考情報】

  • Harvard Gazette(Things money can’t buy — like happiness and better health)
  • 神戸市(ウェルビーイングの実現に資する社会的つながりの新たな推定・評価方法の確立)
  • SOMPOインスティチュート・プラス(幸福度研究会フォローアップ報告書~生きがいと希望を支えるつながり~)
  • Wilhelm von Humboldt(Briefe an eine Freundin)
  • National Geographic(Maurice and Katia Krafft: Volcano researchers)
  • Hewlett Packard Enterprise(The History of HP)
  • 帝国ホテル(帝国ホテルの歴史・フランク・ロイド・ライトと林愛作)
  • The Renoir Society(Pierre-Auguste Renoir and Jean Renoir)
  • Emmanuel Levinas(Totalité et Infini)

 

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