動物との出会いがくれたかけがえのない学び
子どもの頃、テレビの中でクリスマスや誕生日に仔犬を贈られる家庭を見ては、胸がときめく憧れでいっぱいになった。
プレゼントの箱の中から顔を出すふわふわの命。それを抱きしめて笑う子ども。そんな光景は、まるでおとぎ話のワンシーンのように思えた。
私の家はというと、父の転勤のある仕事の都合で、アパートや社宅を転々とする暮らし。犬や猫を飼うことはできなかった。だからこそ、動物と暮らす家庭は、特別で、うらやましくて、私にとっては“遠い未来の夢”だった。
それでも幸運だったのは、父方の祖父母の家には数頭の犬が、母方の祖父母の家には猫や小鳥がいつもいたこと。遊びに行くたびに、私はそのあたたかな命たちに囲まれていた。
温かくて、ふわふわで、人間とは違う動きをする小さな体。私は飽きることなく見つめ、たくさん話しかけ、触れて、一緒に遊んだ。「もし言葉が通じたら、もっと楽しいのに」と、よく思っていた。
時が流れ、私が大人になったある日、母方の祖母が75歳で白い犬を迎え入れた。「先代の白い猫が亡くなって、どうしても寂しくてね」と、祖父の大反対を押し切り、ペットショップから連れてきたのだ。
祖母は幼い頃から動物が大好きで、かつては馬やうさぎも飼っていたという。家に動物がいない時間のほうが、むしろ珍しかったくらいだ。
けれど私はふと、心の片隅でこんな思いがよぎった。
――おばあちゃんの年齢と犬の寿命、どちらが先なんだろう。
そんな不安が現実になったのは、それから数年後のこと。祖父は先に亡くなり、その後祖母は徐々に認知症を患い始め、犬の世話が難しくなっていった。
ある日、祖母の家を訪れた私は、衰弱しきった犬を見つけた。体調の異変に気づかれず、ごはんも水も与えられていない状態で、目には力がなく、命の灯火は今にも消えかけていた。
ほんの少し、発見が遅れていたら——そう思うと今でも胸が痛む。
けれど、動物病院での懸命な治療と温かな看護のおかげで、その犬はなんとか回復し、無事に退院することができた。そして、わずかな生きる力を取り戻したその命は、私の元へとやって来た。
思いがけない形で、子どもの頃に憧れ続けた「犬との暮らし」が、現実となったのだ。
プレゼントの箱から飛び出してきたわけでも、サンタクロースが連れてきてくれたわけでもない。けれど、人生のめぐり合わせが、そっと私に託してくれた命。
今、私のそばで寄り添ってくれるこの犬は、ただの“夢が叶った”存在ではない。
祖母の寂しさを埋めてきた、優しい命。
私に大切なことを教えてくれる、愛おしく、尊い家族。
そして、いつも変わらぬ愛を惜しみなく与えてくれる、小さな光。
これは偶然ではなく、きっと「出会うべくして出会った」かけがえのないご縁なのだ。
いまだ続く“殺処分”の現実と数字
近年、SNSでは【保護犬】や【保護猫】という言葉が日常的に見られるようになりました。
しかしその裏で、日本では年間1万件以上の殺処分がいまだに行われているという現実をご存じでしょうか?
毎日のように、私たちの見えないところで、沢山の命が処分され、消えていっています。
環境省の2024年度最新統計では、以下のような数字が発表されています。
・犬の殺処分数:3,821頭
・猫の殺処分数:8,137匹
・合計:11,958件
つまり、1日に約32匹の命が処分されているということになります。
最も多かった2004年、年間約39万件の殺処分が行われていたことを思えば、この20年で大幅に改善されたように見えます。
けれど、「ゼロ」にはまだ程遠く、しかも殺処分対象の大半が生後間もない子犬や子猫、病気を抱えた個体、高齢の犬猫です。
つまり、「商品価値がない」と見なされた命ばかりなのです。
殺処分がなくならない4つの理由
ではなぜ、殺処分がいまだになくならず、沢山の命が絶たれてしまうのでしょうか?
その背景には、
①ペットショップ中心の流通
②無計画な繁殖・多頭飼育崩壊
③適切な譲渡システムの未整備
④「飼えなくなった」ことによる放棄
などがあります。
〈①ペットショップ中心の流通〉
現在の日本では、犬や猫のおよそ9割がペットショップを通じて流通しています。
一方、アメリカでは60%以上が保護施設やシェルターから迎えられており、「命を救う選択」が当たり前の文化になっています。
日本では未だに、「血統」や「ブランド」に価値を置く風潮が根強く残っています。
ペットを“モノ”として選ぶような購買スタイルは、命の本質を見失う結果につながりかねません。
♢また、現在のペット産業には、命を巡る深刻な問題が多く存在しています。
例えば
・生後8週間未満での販売(2024年法改正で12週を要請中)
・商業ブリーダーの過密飼育
・「売れ残り」は保健所行き
という現状があります。
ペットショップで売れ残った子たちは、ブリーダーへ返還され、闇マーケットでの転売や繁殖、保健所での処分という厳しい道をたどることがあります。最悪の場合、殺処分される命もあるのです。
動物たちが「商品」として扱われている現代社会の構造こそ、見直すべき根本課題です。
動物は、心と命を持つ存在です。
どうか、ひとつひとつの命に目を向けていきましょう。
「その子の命がどこから来たのか」を知ることが、社会を変える第一歩になります。
〈②無計画な繁殖・多頭飼育崩壊〉
飼い主が避妊・去勢を怠った結果、どんどん増えてしまい、手に負えなくなったケース。その結果、飢えや感染症で苦しみ、命を落とす子たちも少なくありません。
2024年、全国で確認された多頭飼育崩壊の件数は812件。これは前年比で+13%という増加傾向にあります。
その背景には、
・「かわいそうで手放せない」という心理
・社会的孤立や高齢化
などの現代の社会問題とも複雑に絡んでいます。
〈③適切な譲渡システムの未整備〉
2025年現在、全国で約2,000以上の動物保護団体が活動していますが、その多くは個人や少人数での運営で、以下のような課題に直面しています。
・継続的な資金不足(医療費・食費・施設維持費など)
・人手不足(シェルターの掃除、通院、送迎など)
・劣悪な環境からの緊急レスキュー対応の頻発
1匹あたりの医療費・食費・管理費で月2〜3万円がかかり、保護施設の年間の運営費は平均300〜600万円以上とも言われています。
これらを自己負担で続けている団体も少なくありません。
♢また、保護された犬猫の多くが、重度の疾患やトラウマを抱えており、回復には数ヶ月から数年かかることも珍しくありません。
「助けたい命はあっても、受け入れるスペースも予算もない」
そんなジレンマの中で、現場の方々は命と向き合っています。
愛だけでは救えない現実が、そこにはあります。
♢そして多くの人が誤解していることのひとつに、「保健所に行けばすぐ譲渡してもらえる」という認識があります。
しかし実際には、収容された犬猫は一定の期間内に引き取り手が現れないと「処分」されます。
特に命が危険にさらされやすいのは
・生後まもない子犬・子猫(人工授乳が必要)
・噛み癖・吠え癖などの“問題行動”があると見なされた子
・高齢、病気、障がいを持つ動物
すべてが、人間の都合で“生きるチャンス”を奪われる命です。
〈④「飼えなくなった」ことによる放棄〉
保健所に持ち込まれる犬猫のうち、3割以上が“飼い主からの直接放棄”です。
その理由は以下の通りで、
・高齢・病気による飼育困難:32%
・経済的理由:24%
・引越し・家庭の事情:18%
・問題行動:11%
・多頭飼育の崩壊:8%
私が現在一緒に暮らしている犬も、祖母の高齢化と認知症の進行により、飼育が難しくなったことがきっかけで引き取った子です。
また、ペットの譲渡募集掲示板などを見ていると、
・「仕事の転勤で飼えなくなった」
・「家族の事情で手放すことになった」
といった理由が多く見受けられます。
掲示板では犬や猫だけでなく、鳥、爬虫類、金魚など、さまざまな動物たちの新しい飼い主が募集されており、中にはこういった投稿もありました。
「川を泳いでいたカメを網ですくって飼っていたが、家族が増えるため手放したい。野生に戻すのは可哀想だから、誰か引き取ってほしい」
——一見「優しさ」のように見えて、実は身勝手な理由です。
命ある存在を、あまりにも簡単に“持ち物”のように扱ってしまっているように感じられます。
多くの放棄理由は、結局のところ「人間の都合」です。
きっと誰もが心のどこかで、「命は軽くない」と分かっているはず。
けれど、命を迎えるということの重みを、最後まで想像しきれていない——その一瞬の軽さが、動物たちの一生に深い影を落としているのかもしれません。
私の友人に、動物が大好きな人がいます。
けれど彼女は、あえてペットを飼っていません。
その代わりに、猫カフェや県外の動物カフェによく足を運び、動物と触れ合う時間を楽しんでいるようです。
以前、「そんなに動物が好きなら、飼いたくならないの?」と聞いてみたことがあります。
すると彼女はこう答えてくれました。
「動物は本当に大好き。でも、私は仕事で家を空けることが多くて、きちんとお世話できないと思うんだ。だから、飼うことで動物に負担をかけるくらいなら、今のかたちで関わっていたい」
この言葉に、私は深く心を打たれました。
命を「好きだから飼いたい」と衝動的に迎えるのではなく、「命に対する責任」をきちんと考えた上での判断。
その選択には、動物への愛情と尊重がしっかりと根付いていると感じたのです。
動物たちが安心して暮らせる社会とは、
「飼う人の数」よりも、「命を大切にできる人の数」が多い社会なのではないでしょうか。
動物たちを救うために、私たちができる5つの行動
命を守るために、特別な資格も、大きな力も必要ありません。
大切なのは、「今できることから始める」勇気ある一歩です。
ここでは、私たちにできる具体的なアクションをご紹介します。
①保護犬・保護猫の譲渡を検討する
②寄付・物資支援を行う
③SNSでの情報拡散(譲渡会や保護団体を応援)
④ボランティア参加(送迎や一時預かりなど)
⑤ペットを飼う前に真剣に考える(「生涯責任」の意識向上)
〈①保護犬・保護猫の譲渡を検討する〉
保護犬・保護猫を家族として迎えることは、命を救う大きな選択です。譲渡までの流れは次の通りです。
1. 保護団体の公式HPやSNSで里親募集をチェック
2. 譲渡会(地域ごとに開催)に参加
3. 面談・トライアル(仮譲渡期間)
4. 本譲渡(正式に家族になる)
「保護犬は問題行動がある」と誤解されがちですが、実際にはとても賢く、愛情深い子が多くいます。
ペットを迎える際には、「最後まで責任を持つ」覚悟とともに、保護動物という選択肢も、ぜひ心に留めてみてください。
〈②寄付・物資支援を行う〉
保護団体の活動には、継続的な支援が欠かせません。
月額数百円から始められる「マンスリーサポート」なども多くあり、
小さな寄付が、命を守る現場にとっての大きな支えとなります。
また、フードやペットシーツなどの物資支援も、現場で非常に喜ばれる支援のひとつです。
〈③SNSでの情報拡散(譲渡会や保護団体を応援)〉
SNSを通じた「拡散」は、今や誰もができる命のサポート。
保護団体の投稿や譲渡情報をシェアするだけで、
一匹の命が新しい家族と出会えるきっかけになるかもしれません。
あなたの投稿が、命をつなぐ“かけ橋”になります。
〈④ボランティア参加(送迎や一時預かりなど)〉
本譲渡までの期間、保護犬・猫を一時的に預かる「一時預かりボランティア」や、
譲渡会への送迎など、支援のかたちはさまざまです。
「飼うことはできないけれど、できる範囲で力になりたい」
そんな想いが、命の“つなぎ役”として大きな意味を持ちます。
〈⑤ペットを飼う前に真剣に考える(「生涯責任」の意識向上)〉
命を迎える前に、「その命と最期まで共に生きる覚悟」があるかを考えることが、すべての出発点です。
保護施設の見学会や講演会への参加、「命の教育」に関わることも、未来への大切な一歩です。
子どもたちが命の尊さを知り、大人たちが責任ある選択をすること。
それが、殺処分のない社会、命にやさしい未来をつくる礎となります。
命を守るという選択が、あなたにもできる理由
私たちにできることは、もしかしたら、ほんの小さなことかもしれません。
けれど、その小さな行動が、ひとつの命にとってはすべてなのです。
動物を迎えるということは、
ただ「飼う」ことではなく、命と共に生きること。
それは、かけがえのない「いのちの時間」を、日々の中で分かち合っていくことです。
けれど今、この国には、
本当は愛されるはずだった命たちが、
誰にも届かぬ声で、静かにSOSを送り続けています。
——命に値段をつけない社会へ。
それは遠い理想のように感じるかもしれません。
でも、それは私たち一人ひとりの選択によって、確かに近づいていける現実です。
保護犬や保護猫たちは、
本来「誰かに愛されるはずだった命」。
そしてその命を救えるのは、
特別な誰かではなく、今この文章を読んでいるあなたかもしれません。
命に責任を持つというのは、何か特別なことをすることではありません。
それはただ、静かであたたかな日常を、心を込めて共に生きること。
やさしい日々の積み重ねのなかで、命と寄り添うということです。
その選択が、
あなたにとっても、命にとっても、本当の「しあわせ」につながっていきます。
命の声に応える理由は、「かわいそうだから」ではなく、
「共に生きたいから」であってほしいと思います。
あなたのやさしさは、
誰かの命を救い、そして社会に希望の光を灯す力になります。
ひとつの命を守ることは、
未来へ命を繋ぐだけでなく、世界を変えるほどの力を秘めているのです。
「私にできることがある」と気づく人が、一人、また一人と増えていけば、
殺処分ゼロの未来は、決して夢ではありません。
どうか、今日この瞬間からでかまいません。
できることから、小さな一歩を踏み出してみてください。
このコラムが、あなたや誰かの行動のきっかけになれば、心から嬉しく思います。
今日もどこかで、
新しい家族との出会いを待ち続けている命がいます。
あなたの愛が、命をつなぐ光となりますように。